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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第87回

イラク戦争の帰還兵が怯える見えざる敵

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『アメリカン・スナイパー』

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米国史上最強と謳われた名スナイパーのベストセラー自伝をクリント・イーストウッドが映画化。米海軍特殊部隊ネービー・シールズの隊員だったクリス・カイルは、その腕前で多くの仲間を救った。祖国では良き夫であり良き父でありながらも、戦場では多くの敵兵を殺すスナイパーのクリスは、やがて、精神を蝕まれていく……。

監督:クリント・イーストウッド/主演:ブラッドリー・クーパーほか/全国公開中


 イラク戦争で160人以上を射殺したアメリカ軍の狙撃兵クリス・カイルの自伝の映画化『アメリカン・スナイパー』は、1月16日に全米公開され、2億ドルを超える大ヒットになっている。しかし、同時に大論争を生んでいる。

 カイルはテキサス出身の西部男だ。子供の頃からライフルで鹿を撃ち殺し、カウボーイハットをかぶってロデオを楽しみ、カントリー&ウェスタンの流れる酒場でケンカし、聖書と星条旗を愛する、本人曰く典型的なレッドネック(南部の貧乏白人)だ。

 米軍最強といわれる海軍特殊部隊ネービー・シールズに入ったカイル(原作の映画化権を自ら買ったブラッドリー・クーパー)は、イラク戦争に従軍する。最初の標的は女性だった。彼女は侵攻してくるアメリカ軍に自爆テロを仕掛けようとした。カイルは彼女を射殺した(映画では彼女の息子も一緒に)。

 それから160人以上の敵を殺したカイルはアラブ人たちを「野蛮人」と呼ぶ。昔の西部劇で白人がインディアンをそう呼んだように。彼は殺したことを後悔してない。それどころか「もっと殺せばよかった」とまで言う。

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