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町田 康の「続・関東戎夷焼煮袋」第25回

【イカ焼】――いよいよ大坂上陸。本能が突き動かすイカ焼屋への旅路

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――上京して数十年、すっかり大坂人としての魂から乖離してしまった町田康が、大坂のソウルフードと向き合い、魂の回復を図る!

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photo Machida Ko

 南へ下る道路には避難民があふれ、僕は10トントラックで大阪へやってきた。というのは友部正人の「大阪へやってきた」という楽曲の歌い始めの文句である。

 これに倣って言えば、西へ下る鉄路には避難民があふれ、私は東海道新幹線で大坂へやってきた。ということになる。

 そう、私は大坂へやってきた。なんのために。勿論、記憶の中にあるイカ焼の味を確認するためである。そして、それを復元して、場合によってはイカ焼屋を開業するためである。そこに懐郷的な要素は毫もない。ただただ、イカ焼を食す。それ以外の目的はない。なのでイカ焼を食したら直ちに戻る。そのつもりであった。

 普通の人間であれば、特に魂などというくだらないものを信奉し、自分のなかにそれを持っている、と信じる人間であれば、折角、大坂に来たのだから、とUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に行ったり、NGK(なんばグランド花月)に行ったり、DSM(道修町)に行ったりするのかもしれないが、申し訳ない、私はそんなしょうむないお兄さんではないので、ついでに、などという愚劣なことは決してしない。

 この際だからはっきり申し上げておくが、ついでに、という思想ほど人間を駄目にするものはない。

 そしてそれは汚れきった豚の思想でもある。

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