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【premium限定連載】ドキュメンタリー監督・松江哲明のタブーを越えたドキュメント 第9回

ダンプ松本が寂しい中年に――生活保護に親のたかり…あの女性レスラーたちが悲惨な今に立ち向かう!

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ドキュメンタリー監督である松江哲明氏が、タブーを越えた映画・マンガ・本などのドキュメンタリー作品をご紹介!

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『自分流。―へこんでもいい!迷ってもいい! 』(大和書房)

 2014年も『ザ・ノンフィクション』を毎週録画し、ほぼ全作品を見てきたが『敵はリングの外にいた(10/26放送)』は今年のベスト1候補の作品だと思う。僕はドキュメンタリー監督として本作の信友直子ディレクターに拍手を敬意を表したい。

 番組を見ていて何度も「よくここまでの関係性を作れたな」と思った。長与千種とダンプ松本、二人はとにかく涙を隠さない。50を過ぎた女性が赤裸々に想いを語り、泣きじゃくる。カメラを持つディレクターも心が動くのを隠せない。現場にいて声が溢れてしまうのをそのまま使っている。

 本作はカメラマンではなく、主にディレクター本人が撮影した映像で構成されている。最近の『ザ・ノンフィクション』では珍しい。ナレーションの永作博美も聞いただけでは彼女の声とは気付かないほどに自身を抑えている。淡々と棒読みのように状況を説明する。だが、その抑制がいい。僕には頂点を極めた女子レスラーたちに対する溢れんばかりの敬意を堪えているようにも聞こえたからだ。

 僕はクラッシュギャルズのことをよく覚えている。長与千種はリングの上で戦い、歌っていた。観客席ではファンの女性たちが黄色い声援を上げていた。まるでアイドルのようだが、実際、彼女の人気は凄かった。番組の中でも水着のグラビアが紹介されていたが、当時を知らない人からすれば冗談のように映るだろう。

 もちろんダンプ松本の極悪同盟も忘れられない。金属チェーンや鞭、竹刀でクラッシュギャルズを苦しめ、派手なメイクをしながらも笑っていない瞳が幼い僕には怖かった。その姿は今も変わらない。観客は圧倒的に少ないが、ダンプ松本の試合は当時の記憶を蘇らせてくれた。しかし、化粧を落とすと(失礼を承知で書くが)寂しい中年女性の悩みを隠さない。独身で一人暮らしの彼女は整骨院に通い、50代の体のキツさを晒し「こう見えて薬飲んで寝てるんだから」とまで告白する。居酒屋でお気に入りのイケメン店員には酔った勢いで抱きつくのが精いっぱい。試合のない時はパーティのサプライズゲストとして登場し、ギャラ以外のお捻りに感謝する。今の夢はプロレスラーたちが集う老人ホームを作ること。互いに持つ悩みが分かるからこそ「その為にお金を貯めている」と涙を流しながら言えるのだろう。ダンプ松本が今、置かれている状況の切実さが伝わる映像だった。

 一方、長与千種も自分と戦っていた。カラオケバーを営む彼女は9年前に引退し、プロレスとは一切関わりを持たなかった。当時のことを「あまりにも頂点が強烈だったので早く下りたい、でも下りられない」と語るが、その光景は僕らには想像もつかない。しかし一人愛犬とカップラーメンを食べ、「体に悪い」と分かっていながらもコタツで寝てしまうような生活はいかがなものか。彼女がレスラーになったきっかけは両親に捨てられ、一人で生活をしたいと考えたからだ。それからもお金をせびる親に対しては「お金を出すことが嫌なんじゃない、ただ存在として、長与千種として求められたい」と言葉を詰まらせる。

 ある日、ダンプ松本から長与千種に「プロレス界がこのままだとダメになる」と電話があった。復帰を決意した長与は体重を25キロも落とし、試合に挑む。ダンプは相棒でもあったクレーン・ユウこと本状ゆかりにも声を掛けた。シングルマザーとして3人の子どもを育て、生活保護を受けるまで追いつめられていた彼女はプロレスをやることは断ったが、ダンプのセコンドとして登場することになった。大きな歓声の中、試合が始まった。三人の30年前の映像と、現在の映像がカットバックする。もし当時を頂点とするのなら、今のこの時は何なのだろう。二度目の頂点とは言わない。だが、それぞれにとって30年前とは想像もしないような幸福な時間であることは間違いなかったはずだ。リングの上で最高の表情を見せている長与千種がそれを証明している。

 試合の後、長与は入院中の母親の元へと向かった。父の墓を東京に移し、一緒に生活をしないかと提案する為だ。恨みを持っていた彼女にとって、それは大きな決断だったに違いない。ダンプ松本との試合が何かを変えたのだろう。娘の想いに対し、母親は「千種はお父さんと私の宝物」と必死で声を絞り出した。番組の最後、長与千種はダンプと共にリングの上にいた。もうすぐ50歳になる彼女は、実に楽しそうだった。
 
 僕は本作に一つだけ不満がある。それは尺が短過ぎることだ。一時間弱では長与千種を中心に描くことが限界だったのではないか。きっとダンプ松本、本状ゆかりにもドラマがあったはずだ。彼女たちのリングの外の敵をもっと見たかった。時間の決まっている『ザ・ノンフィクション』でそんなことを願うのはお門違いであることは十分承知だ。ただ、もし可能なら続編が見たい。または時間に制限のない劇場版として再構成するのは難しいのだろうか。

 そんなことを願わずにいられないほどの傑作だった。

まつえ・てつあき
1977年、東京生まれのドキュメンタリー監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。作品に『童貞。をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)、『フラッシュバックメモリーズ3D』(13年)など。『ライブテープ』は東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門作品賞を受賞。

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