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宇野常寛の批評のブルーオーシャン 最終回

休載のお知らせとこれからの話

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──既得権益がはびこり、レッドオーシャンが広がる批評界よ、さようなら!ジェノサイズの後にひらける、新世界がここにある!

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『夢現力―夢を現実にする力―』(出版文化社) 

 突然だけど、今回をもってこのコラム欄を休載することにした。同じ雑誌に2本の連載は締め切り的にも、話題のチョイス的にもさすがにちょっとやりづらい、というのが主な理由だが、強いて意味付けをするのなら、僕という書き手はこの「サイゾー」という雑誌の巻末を飾る書き手として相応しくないのではないか、ということを前から思っていて、その違和感が大きくなってきたこと、を挙げてもいいのかと思う。

 僕が会社員時代に副業で「サイゾー」で記事を書くようになったのが2005年なので、9年前のことになる。9年で何が変わったかというと山ほどあるのだけど、一番変わったのは、もう誰も紙の雑誌がこのまま生き残るとは思っていないということだろうと思う。少なくとも僕はそうで、僕は自分が10年後も出版社から原稿料や印税をもらって生活している未来が想像できない。実際僕自身も、気がついたらずいぶんと出版産業以外からの収入の比率が増えているし、自分で作っている雑誌の編集部を兼ねた事務所はいつの間にか大きくなって、メールマガジンと電子書籍とインターネット放送で数名の若者が食い扶持を稼ぐユニットになっている。そして、ここから先が問題なのだが、いま、僕が夢中になれる仕事の大半が、自分で作る雑誌やメルマガやネット番組の、自分で考えた企画ばかりだ。もちろん、僕はちょうど「サイゾー」に書き始めた頃、自分で読みたい雑誌を自分で作ろうと、東京のギョーカイ人よりもネットのアマチュアである自分たちのほうが面白いものを作れるということを証明するために、雑誌の自費出版を始めたのだ。だから当時も今も、いちばん面白いのは自分のメディアだと思っているのだが、この数年で本当に出版社の社員からもらう企画に魅力を感じなくなった。

 例えば僕はここ数年、少なくとも年に一冊は、書き下ろしの新書の企画提案を受けているが、ほとんど焼き畑農業のような提案しか出てきたためしがない。実例を挙げるとさすがにアレなので書かないが、まあ、ツイッターのホットワードランキングを眺めながら一晩で書いたような企画書が並んでいると思えばいい。現在の読書階級の中心は「○○する力」的な本をありがたがる熟年層であり、彼らは基本的に新しいものは何も求めていない。だから彼らがその読書階級としての自意識を確認できるような蘊蓄ものか、あるいは「情報社会/グローバル化/新しい働き方とか言っているけど、流されすぎるとアレなのでほどほどに」といった、現状肯定的な自分を上書き的に肯定してくれる本が売れ線になり、当然、出版社の出してくる企画もその類いのものが多くなる。個人的には、前者への欲望はウィキペディアで満たせばいいと思うし、後者についてはまったく価値がわからない。そりゃあ、「流行ものに乗っかりすぎずにうまくバランスを取れ」的なお説教はいつの時代も正しいに決まっているし、特に反論もないのだが、なんでわざわざお金を払ってまで「夏は暑いので熱中症に気をつけろ」的な常識論を読まされなきゃいけないのか理解に苦しむし、ましてや自分が書く気にはならない。気がついたら、自分の仕事の中心は自分のメディアとその広報を兼ねた大手メディアへの露出が中心になっていた。これは、なんだかんだで出版文化に育てられた僕にとってはとても、とても寂しいことだ。

 本誌「サイゾー」は、そういった後ろ向きな出版界において希少な、好き放題書かせてくれる一種のサンクチュアリなのだけれど、雑誌自体は毎年同じような特集を繰り返していて、まあ、ビジョンらしいビジョンはないのだと思う。というか、僕らワガママな書き手に場所と原稿料を保証するのに精一杯なのだと思う。僕はそんな編集部の厚意に甘えて、好き放題に書き散らすコラムを何年も書いてきたのだけど、偉そうなことを言ってしまった分、なんというか今、紙や雑誌に残された可能性を真面目に追求できるような関わり方をすべきだと思ったわけだ。この「サイゾー」という雑誌は僕を育ててくれた媒体のひとつで、言ってみれば恩返しのような形で、何かもっと積極的かつポジティブな関わり方を模索したいと思っている。よって、「雑誌の時代」の残り香に甘えるようなこの種のコラムはさっさと辞め、別の可能性を追求するべきと判断した。長い間、ご愛読ありがとうございました。

〈近況〉
サイゾー×PLANETS「月刊カルチャー時評」対談はこれからも続きます。そちらは引き続きよろしくお願いします。

うの・つねひろ
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌「PLANETS」の発行と、文化・社会・メディアを主軸に幅広い評論活動を展開する。近著に、対談集『静かなる革命へのブループリント:この国の未来をつくる7つの対談』(河出書房新社)がある。

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