サイゾーpremium  > 特集  > タブー  > 『POPEYE』の【シティボーイ】復権と裏にある選民思想
第1特集
『POPEYE』のシティボーイを徹底研究【1】

一足2万円のニューバランスがマストアイテム! 蘇る"シティボーイ"はどこにいる ?

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――2012年のリニューアルに際し、Magazine for City Boysと銘打ち、ファッションだけでなくライフスタイルを提案して人気を博す、マガジンハウスの男性向けファッション誌「POPEYE」。ただ、そうした"憧れのライフスタイル"を打ち出すあまり、無理した部分が散見され、気安く手にとった者にとっては、理解し難い部分もあるようだ……。

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リニューアル以降、ファッション業界関係者のあいだで何かと話題。

 昨今、男性ファッションカルチャーの文脈を語る上で外せない一潮流が「シティボーイ」である。50代以上の読者、もしくは雑誌好きならば、1976年に創刊された雑誌「POPEYE」が提唱していたアメリカ西海岸風のスタイルや、アイコンとしての植草甚一などを思い浮かべるかもしれない。しかし現在の「シティボーイ」は、2012年6月号で全面リニューアルした当の「POPEYE」が打ち出して話題になった、言うなれば10年代仕様の再定義バージョンである。まだ一般的なファッション誌だったリニューアル前の同誌の実売は5万部程度だったが、「シティボーイ」を打ち出したリニューアル号(12年6月号)以降、一気に10万部ほどまで伸ばしているのだ。

 10年代仕様の「シティボーイ」を、ファッションアイテム単位でイメージするなら、NEW ERA(アメリカのヘッドウエア・ブランド)のキャップやニット帽、メゾン キツネ(フランスを拠点に、音楽レーベル、アートなどの活動を行う『キツネ(KITSUNÉ)』が展開するブランド)のウェア、ロールアップしたパンツ、ニューバランスやナイキのスニーカーといったところだろうか。全身をブランドで固めず、ジャストサイズのジャケットやシャツを着用しながらも、キャップやスニーカー、パンツの着崩しなどでハズす。90年代ストリート文化や、かつての渋谷系テイストを一部継承したり、OSHMAN'Sのような西海岸アウトドア志向を取り込んだり、ロードバイクにまたがってエコに都会を疾駆したり。ざっくりいえば、そんな感じである。

 彼らの職業にも注目だ。14年2月号の特集では「STYLE SAMPLE'14」と題し、日本を含む世界中のシティボーイファッションを紹介しているが、コレクトされた被写体の職業は、デザイナー、フォトグラファー、エディター、アーティスト、ミュージシャン、アパレルショップスタッフ等々。横文字が出るわ出るわ。職業欄の「スケーター」に、それって職業か? と突っ込んだり、時々出てくる「会社員」の内実を想像してみたりと、サイゾー読者的には酒の肴にうってつけだ。

 年齢層も、20代から50代までと幅広い。実際、「POPEYE」に取り上げられている街撮りスナップのモデルは20代から30代が中心だが、アパレルデザイナーのポール・スミスなど、地位も名誉もある海外のクリエイター系エグゼクティブたちも多数フィーチャーされている。

 読者の世代感覚が広いだけあって、シティボーイを背負う文脈は世代によってさまざまだ。20代は、ファストファッションに対する反動。30代は、90年代渋谷系音楽や裏原文化や雑誌「relax」(06年休刊/マガジンハウス)的な価値観のリバイバル意識。40〜50代は、かつての「POPEYE」文化の正統継承者として――といったところか。

 ただ、「写真に出てくるのは若者ですが、老人やおじさんがこの服を着ても、今の社会では許される。だから今の読者は若者だけではなく、昔の「POPEYE」を読んでいた、センスのいいおじさんではないでしょうか?」とは、都市論を専門とする白鴎大学経営学部・小笠原伸教授の弁だ。

「同誌で連載されている田原総一朗や松浦弥太郎のコラムをじっくり読む今の若者は、ごく限られた層。実はビジュアルで見せているように見えて、記事やキャッチも含めてテキストが高尚すぎるんです。教養がないと読めないハイコンテクストな雑誌ですが、おじさんはついて行けます」

 かつて知識・教養面の修行を積み、今は金を持っている「シティボーイおじさん」に支えられているのが、現在の「POPEYE」のようだ。

また「シティボーイおじさん」を考える上では、昨今のDJバー文化も無視できない。DJバーは、かつてのクラブ文化の流れは汲んでいるものの、基本的には大人向けの空間として営業している。これが都内だけでなく地方都市にも続々オープンしているのだが、そのオーガナイザーに、現在40歳前後の90年代クラブカルチャー経由層が多いというのだ。

 かつて東京でどっぷり遊んだ経験があり、今は故郷に戻って仕事もしつつ、東京で吸い込んだセンスを、意識高い系仕様で地方に展開する中年たち。もっと意地悪な見方をするならば、「若いころ中央で一旗あげられなかった凡人が、地方でカッコつけつつ自己実現を図る」構図でもある。

 これを嘲笑するのは簡単だが、彼らも90年代の夢をいまだに引きずる、10年代仕様のシティボーイ(もしくはシティボーイワナビー)であることもまた事実だ。

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