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哲学者・萱野稔人の"超"哲学入門 第7回

人々は国家が成立する以前から所有権を固有なものとしてもっている

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(写真/永峰拓也)

『完訳 統治二論』

ジョン・ロック(加藤節訳)/岩波文庫/1400円+税
17世紀イギリスの政治思想を代表する哲学者ロックの主著。フィルマーの王権神授説を否定し、政治的統治の起源を所有権を守るための社会契約によるものと主張。アメリカ独立宣言、フランス革命にも影響を与えた。

 ジョン・ロックは17世紀イギリスの哲学者で、彼の政治思想はアメリカ独立宣言にも大きな影響を与えたことで知られています。

 前回紹介したホッブズと同じように、ロックも国家のなりたちを社会契約の概念によって説明しました。ロックによれば、国家の役割とは人びとの自由と財産を守ることであり、国家はその役割のために人びとによって自発的につくられたものです。だから、国家が人びとの自由を抑圧したりしてその役割を果たせないときは、人びとは革命を起こしてその国家を倒してもいい。ロックはそんな民主的でラディカルなことを主張したんですね。ホッブズの社会契約論を民主主義的にバージョンアップしたのがロックの社会契約論だといってもいいでしょう。

 ただ、ここではロックの思想のそうした民主的な性格についてではなく、もう少し理論的な問題について話をしたいと思います。

 ロックは代表作『統治二論』のなかで、国家の目的を「固有権」の保全にあると考えました。「固有権」とは各人に固有に備わっている権利のことで、具体的には自由と所有権を指しています。つまり、人びとの自由を保障し、所有権を守ることが国家の役割だということですね。

 この考え方でいくと、人びとは国家が成立する以前から所有権を固有なものとしてもっているということになります。では、どのように所有権は成立するのでしょうか。ロックは二つめの引用文にあるように、各人がみずからの労働を自然物に付与することによって所有権は成立する、と考えました。

 たとえば誰のものでもない樹木に果物がなっているとします。これは引用文にある「自然が供給し、自然が残しておいたもの」に該当します。あなたはそれを食べたくて、手を伸ばしてもぎ取ります。その瞬間、あなたは果物に「自分の労働を混合し」「自身のものである何ものかを加えた」ことになり、それによって果物はあなたの所有物になりました。あなたの労働が自然物に加えられることで所有権が発生したのです。

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