サイゾーpremium  > 連載  > 新刊と映画で考える【超常現象科学】の最先端

――幽霊、ポルターガイスト、念力──。常にいかがわしい対象として扱われてきたオカルト現象を本気で科学する「超心理学」。この学問では、「現代物理学では説明できない現象がある」ことを科学的検証で確認しているという。しかし、ここでの研究内容は、我々の想像を超える、人間の未知の能力について迫る最先端科学だったのだ──。

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『NY心霊捜査官』より。

 "青森県の消防通信指令室へかかってきた、『無人別荘』からの119番通報""オランダ・デルフト工科大学が100%の量子テレポーテーションに成功"……。これらは、ここ数カ月の間に有力メディアから配信された報道だ。こうした "オカルト"めいた事象は注目を集めがちだが、真偽はさておいて、先般上梓された本が話題を呼んでいる。明治大学情報コミュニケーション学部の石川幹人教授の『「超常現象」を本気で科学する』(新潮新書)だ。同書では、テレパシーや透視、予知といった、いわゆる非科学的な現象について「どこまで解明され、何が謎なのか?」を明確にしつつ、最先端科学の魅力に迫っている。

 それでは、こうした非科学的な現象を科学的に考察する"超心理学"で解明できないものは、やはり心霊現象といえるのだろうか? 9月20日に公開される、実際のオカルティックな事件をモチーフにした映画『NY心霊捜査官』で描かれた「心霊捜査」「憑依」「ポルターガイスト」について、同氏に話を聞いた。

 まず本題に入る前に、石川教授の経歴を追ってみよう。高校時代の石川少年は、デパートの奇術用品売り場で実演するほどの腕利きのマジシャンだった。当時はサイコキネシス(念力)でスプーンを曲げるユリ・ゲラーが活躍した超能力ブームの最中。石川少年は、ゲラーの能力が本物かトリックか確かめるため、"ゲラーに触発されて超能力が開花した"という子どもたちの研究実験を手伝うことにした。 石川教授は、その時のことを振り返る。

「超能力があるとされる子どもにスプーンを1本渡され、私は普通のスプーンだと確かめた。そして、胸のポケットに入れておきました。30分くらいしてポケットから取り出したら、誰も手を触れていないのに45度くらいねじれていた。アッと驚いたら、またその子が来てスプーンを取り上げると、今度は指でつまんだまま180度までねじってしまいました」

 これは、トリックに精通していた石川少年にも、まったく解明しようのない出来事だった。その後、石川少年は東京工業大学大学院で心理物理学を学び、就職後は人工知能の開発に従事、そこで、機械では実現し得ない人間の"叡智"の可能性について考えるようになる。そして、2002年にアメリカの名門デューク大学に客員研究員として滞在し、超心理学の世界的研究拠点であるライン研究センターで超能力研究に打ち込んだ。

 その時、アメリカで数々の透視実験で高い成功率を収めた、著名超能力者ジョー・マクモニーグル氏にも出会った。彼は、冷戦時代、旧ソ連の超能力研究開発に対抗してアメリカ政府が設立した機密研究プロジェクト「スターゲイト計画」において、その遠隔透視能力を買われて軍事諜報員として活躍した人物。旧ソ連北部で建造されている巨大潜水艦を透視で発見し、その後、軍事衛星からの画像で事実であることが判明した実績もある。

 石川教授は、マクモニーグル氏のデモンストレーション実験に立ち会った時のことを、こう語る。

「隣の部屋に置かれたパソコンに映される画像を透視する実験でしたが、結果は芳しいものではなかった。スターゲイト計画の実験でも、駐車場の位置が左右逆とか、現実とは違っているところも多い。かなりいい線いってる、といえる程度で、すべてが成功しているわけではないんです。確かに透視能力自体は科学的方法で研究され、『現代物理学では説明できないなんらかの現象が起きている』と確認されていますが、その効果はわずか。マクモニーグルのような定評のある人でさえも百発百中ではなく、諜報には向かないんです」

憑依やポルターガイスト現象は人間が引き起こしている?

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日本に3台しかない「地球意識プロジェクト」の乱数発生器。これが我々の無意識をキャッチしているのか。

 では、「ポルターガイスト」や「憑依」現象についてはどうなのだろうか?

「超心理学においても、ポルターガイストの事例研究はあります。実際私も、信頼できる研究者から実例を聞きますが、目の前で、灰皿や花瓶が、空中を浮遊してから落下したそうです。ただ、超心理学ではこれを"霊"の仕業ではなく、その家にいる誰かの心理的不安によって引き起こされていると解釈します。例えばですが、『NY心霊捜査官』に描かれていたように、戦場でショッキングな体験をした帰還兵が、その心の不安から無意識に念力を発揮し、ポルターガイスト現象を起こしてしまうことは否定できないでしょう。また、憑依に関しても過去の生者(つまり死者)に対して透視能力が働き、無意識にその人物の記憶が自分のものだと考えてしまうと解釈しています。特に、子どもたちが突然『前世』を語り始める現象に関しては、こうした過去への透視能力が働いている可能性があると考えています」

 無論、こうした超常現象は、まれにしか起こらない。実験で再現できなければ、科学とは見なされないため、超心理学では現在もさまざまな実験が行われている。そんな中、最近注目を集めているのが、乱数発生器を使った実験だ。

 乱数発生器とは、物質の最小単位である量子をランダムに発生させる機械だ。この発生器に人間が念をかけると、ランダムなはずの数字に偏りが出てくることがあるため、人間の意識がなんらかの量子的な効果を生み出している可能性があることに着目。それが念力や透視能力といった「人間が持つ心と無意識の力」の解明につながる可能性を探っている。

「最近では、プリンストン大学の研究で、人が送る"念"にかかわらず、大きな事件が起きたりすると際立った偏りが出ることがわかったんです。それで世界各地に乱数発生器を設置する研究が『地球意識プロジェクト』です。米同時多発テロ事件の時には、標準偏差の6・5倍という特徴的なデータが出ました。ここにあるのが、日本に置かれた第1号です」

 石川教授は机の上の小さな機械を指した。これが、多くの人々の無意識を拾っていることになる。

「現在、世界各地約100カ所に設置され、プリンストン大学にデータが集まっています。事件だけでなく、オリンピックやワールドカップなどの巨大イベントでも偏りが出ます」
 天文学者のカール・セーガンも、乱数発生器による実験には、心の念力が存在する「可能性」を認めていた。だが、ほとんどの自然科学者はそうではない。

「今、自然科学は、人間が自分の理性や主体性に基づいて自由に考え、行動する『自由意思』を認めず、すべてが脳にプログラムされていた結果によって起きている、いわば機械と同等の存在であるという流れになっています。今回の映画『NY心霊捜査官』に沿って言えば、近年、脳科学が科学界で権威を持ち、DNA鑑定が進み、しまいには脳鑑定になって、『犯罪は脳の仕組みによるものだ』という結論になりかねない。これは、人間の心の存在を無視し、すべてをメカニズム的に考えてきた結果ともいえるでしょう。しかし、人工知能の研究でわかったのは、人間には、物理的なメカニズムを超えた何か特別な力が備わっている可能性があるということ。その答えが心的世界にあるかどうかを私は研究しているのです」

 無限の可能性を秘めた人間の心の力に目を向ける新しい科学、それが「超心理学」だ。この夏は少し視点を変えて、科学でいまだ説明できない超常現象を、真面目に解説した石川教授の新刊と映画『NY心霊捜査官』を通じて、最新科学に思いふけるのもまた一興かもしれない。

(文/深笛義也)

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石川幹人(いしかわ・まさと)
明治大学情報コミュニケーション学部教授、同学部長。工学博士。認知情報論、科学基礎論を専門とするほか、日本における超心理学研究の第一人者としても知られる。著書に『超心理学』(紀伊國屋書店)、『「超常現象」を本気で科学する』(新潮新書)などがある。


元ニューヨーク市警巡査部長の実体験に基づいた怪事件に挑むサスペンス・ホラー
『NY心霊捜査官』

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『NY心霊捜査官』より。
ニューヨーク市警のラルフ(エリック・バナ)は、何かに取り憑かれたかのように不可解な事件を起こした男女を逮捕する。まったく別物に思われた複数の事件の捜査を通し、彼は自分にしか見えない、何者かの存在を感じていた。そしてラルフは、それぞれの現場に残された謎の言葉から、事件の裏に潜むイラク帰還兵たちの“負の念”あるいは“悪霊”が、事件に強く影響していることに気づく。止まらない悪の連鎖に、ラルフは自分や家族の身の危険を感じるように。そこで助けを求めたのは、複雑な過去を持つ神父だったのだが…。

この映画には米ホラー映画にありがちな、いわゆる「悪魔」的なモンスターは一切登場しない。本作で描かれた悪魔は、超心理学における無意識下の念力によるものなのか、または本物の悪魔なのか? 自分の目で確かめてみてはどうだろう。ちなみに、「R18」指定となった悪魔払いのシーンの撮影では、実際に、神父役の俳優のポケットに入れていた鉄製の十字架が壊れるなどのアクシデントが起こったという。これも何かの意識が働いた結果なのか? この映画そのものの“念力”を感じ取ってみるのも面白いかもしれない。

9月20日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー

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