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哲学者・萱野稔人の"超"哲学入門 第6回

世界は「強者が無理やり支配関係を打ち立てる」という支配関係で成り立っている

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(写真/永峰拓也)

『リヴァイアサン』

トマス・ホッブズ著/水田洋訳/岩波文庫(54~85年)/1巻940円、2巻1040円、3巻1100円、4巻900円(税別)
17世紀、ピューリタン革命期を生きたイングランドの哲学者トマス・ホッブズによる社会契約論。自然状態から必然的に結ばれる社会契約によって生まれる国家を絶対的な権力を持つ存在として海獣リヴァイアサンに例えた。

『リヴァイアサン』より引用
「まったくの自然の状態で、恐怖によってむすばれた信約は義務的である。
たとえば、私が的に対して、自分の生命とひきかえに、身代金または役務を支払うことを新薬すれば、私はそれに拘束される。
すなわち、それは、一方が生命についての便益をえて、他方がそのかわりに貨幣または役務をえるという契約であり、したがって、(まったくの自然の状態においてのように)他にその履行を禁止する法がないところでは、その信約は有効である。」

 ホッブズは近代的な社会契約論の父といわれています。近代国家のなりたちを「社会契約」という概念をつかって初めて体系的・理論的に説明したのがホッブズだということですね。高校の教科書などでも社会契約論は説明されているので、ご存知の方も多いでしょう。その一般的な理解は次のようなものです。

 まず、国家が成立する以前の状態を「自然状態」といいます。この自然状態では、犯罪を取り締まる法も政府もいまだ存在しません。ですので、人びとは自分の欲望のおもむくままに他人から略奪したり、女性を強姦したり、気に入らない奴を殺したりしています。逆に、そうした暴力から身を守るためには、誰もが自分で自分の身を守るか、あるいは仲間と協力して敵の集団に立ち向かうか、しなくてはなりません。自然状態とは「やるか、やられるか」という徹底的な自力救済の世界なんですね。しかしそれではあまりにもしんどい。つねに生命の危険があり、他者に対する恐怖のもとで生きていかざるをえない自然状態は多くの人にとって耐えられないものです。

 そこで彼らは、自然状態を終わらせるために、みんなで協力して共通の権力を打ち立てて、それに服従し、今後、勝手な暴力が行使されたときはその共通権力によってそれを取り締まることを約束します。その約束が社会契約といわれるものですね。そして、打ち立てられた共通権力が政府となり、国家を形成するのです。

 これが一般的に理解されている社会契約論の概要です。が、ホッブズの『リヴァイアサン』を読むと、じつはそれにはとどまらない社会契約のあり方が論じられています。

 上記の引用部を読んでください。

「信約」というのは聞き慣れない言葉ですが、社会契約でいう「契約」と同じ意味です。そこでホッブズはこんなことを述べています。

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