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『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第8回

テレビ中継がないパ・リーグが人気!? 人口減少時代のプロ野球の生き残り方

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通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

――ヨーロッパのサッカー、アメリカの野球など、世界規模でスポーツビジネスが成長している。一方、人口減少時代の日本では、プロ野球もJリーグもパッとしない。そんな中でもビジネス面での話題が豊富なのがパ・リーグだ。かつてはプロ野球の日陰だったが、今では本拠地において圧倒的な存在感を放っている。そこには、チームの経営に真摯に向き合い、リーグ全体の成長を見据えた取り組みがあったのだ。

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クロサカ プロ野球といえば、日本におけるマス・コンテンツの代表格ですが、かつてはセ・リーグとパ・リーグの間に人気格差がありました。しかし、テレビのゴールデンタイムから野球中継が消えた一方で、日常会話やSNSでは、むしろパ・リーグの話題が増えているように感じます。もちろん、観客動員数はセ・リーグの方が上回ります。にもかかわらず、パ・リーグの存在感が高まっているように見える。このギャップはどこから来るものでしょうか? そこで今回は、『パ・リーグTV』を運営する、パシフィックリーグマーケティング(以下、PLM)の上田元さんにご登場いただきました。

上田 PLMは、2007年にパ・リーグの6球団が出資してできた会社です。『パ・リーグTV』を運営するほか、6球団公式ホームページのシステム管理、リーグスポンサーセールスや6球団共同グッズのライセンス管理、6球団共催イベント運営など、パ・リーグ全体に関するマーケティングや営業活動を行っています。具体的には、クライマックスシリーズのスポンサー獲得、ヱヴァンゲリヲンやワンピースとのコラボグッズの販売、を行ったりしています。

クロサカ 日本野球機構(NPB)とは無関係な会社なんですね。

上田 そうなんです。もともとパ・リーグは親会社の兼ね合いもあり、セ・リーグに比べテレビの放映権収入が少なく、ほかの収入を増やす必要がありました。そこでチーム同士は戦う相手ですが、事業としては地域が異なり競合しないので、バックヤードを共通化すればコストが下がるだろう、というのが設立の発想でした。

クロサカ 経営視点の発想ですね。何か参考にされたモデルはあるんですか?

上田 すべてではありませんが、アメリカのメジャーリーグ(MLB)です。MLBはリーグとしてのビジネスが確立していて、まずリーグが儲けて、そこから各球団に分配する。実は15年くらい前まで、NPBとMLBのリーグ全体売り上げは同規模でしたが、MLBは、5~6倍に成長したのに、NPBは現在も横ばいです。そこで日本でもリーグ全体をカバーする組織を作り、ネット配信や様々な権益を持ち寄ってパイを広げることができないか、というアイデアがパ・リーグ各球団の経営層から出てきた。

クロサカ プロ野球界全体の課題ですよね。でも、なぜパ・リーグだけなのでしょう?

上田 当時NPBやセ・リーグとも協議はしたと聞いていますが、なかなか形にならず、まずは収益構造の近しいパ・リーグだけで作ろう、ということになりました。おそらく、パ・リーグの親会社にマスメディアがいなかったのも大きいです。セ・リーグは、巨人と読売新聞・日本テレビのように、そこからもたらされる放映権料が収入に占める割合が大きいですから。

クロサカ 確かにテレビ局とのつながりが深いと、ネット配信に取り組みにくいのは理解できます。一方のパ・リーグは、ソフトバンクや楽天はネットと親和性もあり、また純粋にビジネスに対して貪欲なところばかりですね。

上田 はい、うちの親会社さんは、みんな収益に厳しいです(笑)。以前は、プロ野球チームは「広告塔」で、赤字分は広宣費で補填するのが当たり前でしたが、今は儲からない部門が事業を続けられる環境ではなくなってきています。

クロサカ セ・リーグも状況は近いはずなのに、彼らは大丈夫なんですか?

上田 でも、観客動員はセ・リーグの方が多いですし、広島、巨人、阪神は黒字経営と聞いています。人気球団ということもありますが、プロ野球は経営次第で黒字で回る事業といえます。その上で私たち自身は、パ・リーグの現状がうまくいっているとは決して思っていません。ただ、変えなければいけない、という意識は現場からトップまで一致しています。

クロサカ そうやって危機感を持って動きだしていること自体が、セ・リーグだけでなくほかの業界に対して大きなアドバンテージになっている。マクロ視点で見れば、人口減少によって日本全体がヤバイですから。

上田 野球は特に状況が厳しいです。なぜなら、野球をやらない子どもが増え、かつ野球が見られなくなりつつある。これからは人口減少によって、普通に頑張っても売り上げが落ちてきます。プロ野球は、その影響が最も表れやすい業界で、選手という商品の供給元と、お金を払ってくれるマーケットが同時に縮小することになるわけです。なので僕は会う人に「野球を助けてくれ」って言い方をするんですよ。PLMを通してほかの業界の知見を少しでも野球界に導入したい。「面白いことを一緒にやろう」と、巻き込んでいきたいんです。

クロサカ その「面白いこと」とは?

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