サイゾーpremium  > 特集2  > 万有引力からiPS細胞まで、【有名論文】勝手にレビュー

――研究に邁進する某ポスドク社会学者(のタマゴ)が、西欧近代以降、現在にいたるまでの、賢くて偉い研究者たちの著作や論文を勝手に読み込んでみたら? というわけで、独断と偏見で8つの著作を勝手にピックアップ。内容にも軽く触れながら、恐れ多くも「論文」としての出来をレビューさせていただきます!

「論文度数」とは?
の山中論文を、現代的な意味での学術論文の形式をきちんと兼ね備えているという意味で「論文度数100」と設定し、時代をさかのぼるほど現代的な論文形式からどれくらい離れるかを、編集部の独断と偏見とで数値化して表現したもの。あくまでも形式だけに視点を特化したものであり、学術的な意義深さを表現したものではないので、あしからず。

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古代ギリシアに由来する哲学書の形式である対話篇
【1】ガリレオ・ガリレイ
『天文対話』『プトレマイオスとコペルニクスの二大世界体系についての対話』
『DIALOGO SOPRA I DUE MASSIMI SISTEMI DELMONDO TOLEMAICO E COPERNICANO』
【論文度数】20
出版年 : 1632年
分量 : 日本語文庫本上下巻合計650ページ

出版したことでガリレオが異端審問にかけられ、カトリックの教義と相いれないとして発禁処分になった著作。コペルニクスの地動説を擁護するサルヴィアチ、古典古代以来のアリストテレスの自然学とプトレマイオスの天動説を擁護するシムプリチオ、司会者のような役割を果たすサグレドによるベネチアでの4日間にわたる鼎談。著者の主張をカモフラージュするために対話形式になっているわけではなく、サルヴィアチがガリレオの立場を代弁しているのは明らか。3日目に遅刻したシムプリチオが海神のせいでゴンドラが遅れたと言い訳するところから展開される、サルヴィアチによる潮の干満を根拠にした地動説擁護論は間違いだらけである。


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問題提起→実験方法→結果のシンプル小論
【2】パスカル
「流体の平衡について」
「TRAITEZ DE L'EQUILIBRE DES LIQUEURS」
【論文度数】50
出版年 : 1663年
分量 : 日本語文庫本40ページ

パスカルの原理が登場する論文で、流体に関するさまざまな実験が次々と示されていく。ここで示されたように、密閉容器中の流体に加えられた力が流体のほかの部分に同じように伝わるとすると、狭い一点に加えられた小さな力を、液体を通じてより大きな断面に伝えることで大きな力に変換できる。この作用が、自動車の油圧ブレーキや自動車を持ち上げるフロアジャッキに応用されている。この論文には、底の部分が広がった長いガラス管を太ももに押し当ててガラス管の先を水面に出したまま水に潜るという実験が出てくる。水圧の作用でガラス管に吸い込まれた太ももの痛みを感じることで、パスカルの原理を体感できるというわけである。


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幾何学と観測データで論証を進める自然哲学書
【3】ニュートン
『プリンキピア』『自然哲学の数学的原理』
『PHILOSOPHIÆ NATURALIS PRINCIPIA MATHEMATICA』
【論文度数】70
出版年 : 1687年
分量 : 日本語単行本650ページ

原著はラテン語で書かれた三巻に及ぶ大著。第一巻は定義から始まり、公理として近代力学の基礎となる3種類の運動法則が示される。あとはひたすら命題が示され数学的に論証されていくが、数式がたくさん出てくるわけではなく、むしろ幾何学による論証に必要な図がたくさん出てくる。必要があれば実際の観測データと照らし合わされ、科学的論証のモデルとも言うべき体系的な論述が展開されていく。第三巻ではケプラーが示した天体の運行に関する法則が論証され、あらゆる物体の間には、物体の質量に比例し、物体間の距離の2乗に反比例する力が働いているという万有引力の法則が示される。


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豊かな表現で進化論を説明した一般書
【4】ダーウィン
『種の起源』
『ON THE ORIGIN OF SPECIES BY MEANS OF NATURAL SELECTION, OR THE PRESERVATION OF FAVOURED RACES IN THE STRUGGLE FOR LIFE』
【論文度数】40
出版年 : 1859年
分量 : 日本語文庫本上下巻合計800ページ

はるか遠くの東南アジアで同じような進化のモデルを考えついたウォレスのことを知り、長年あたためていた進化理論を一般向けに急遽書き下ろしたダーウィンの著作。計画していた専門的な大著を一般向けに簡略化したものだが、十分に長い。ダーウィンの進化理論の柱である生存競争と自然選択はそれぞれ第3章と第4章で説明されるので、最初の4章を理解できれば核心を理解したことになる。当時の人々がきちんと理解できたとは思われないが、よく売れた『種の起源』は進化論を広めて世界を変えたと言われるようになる。なお、当初執筆予定だった大著は結局書かれることはなかった。


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序論・手法・結論の基本に忠実な論文スタイル
【5】メンデル
「雑種植物の研究」
「Versuche über Pflanzen-Hybriden」
【論文度数】80
出版年 : 1866年
分量 : 日本語文庫本70ページ

遺伝学の基礎であるメンデルの法則が発表された論文。発表から30年以上ほとんど注目されなかったが、1900年に3人の生物学者がそれぞれ個別にメンデルの業績を再評価した。論文冒頭では、実験対象にエンドウを選んだ理由、実験方法、種子やさやの形や色などエンドウが示す形質の違いが説明されている。これらの形質は表に現れる優性と優性に隠れる劣性に分けられ、雑種を交配させると特定の比率で現れる。自ら修道院で行った実験によって得たデータに基づき遺伝の基本法則を示したことで、現在では修道士メンデルが現代遺伝学の祖として称えられている。


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ひたすら数式が展開される数理論文
【6】アインシュタイン
「運動している物体の電気力学について」
「Zur Elektrodynamik bewegter Körper」
【論文度数】80
出版年 : 1905年
分量 : 日本語文庫本40ページ

1905年は、革命的な論文をアインシュタインが次々と発表した「奇跡の年」と呼ばれる。この年に発表された論文のうちの1つ。註が1つもない。特殊相対性原理と光速度不変の原理から近代に定式化されたガリレイ変換の不十分さを示し、ローレンツ変換という新しい慣性系の変換式を提起して、慣性系によって時間の流れが変わりうるという特殊相対性理論の端緒となった。ほかにも「奇跡の年」には、質量がエネルギーと等価であり質量のエネルギーは光速の二乗との積で表されることを証明した論文や、ノーベル賞受賞につながった光量子仮説を提起した論文などが発表されている。



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