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宇野常寛の批評のブルーオーシャン 第49回

『美味しんぼ』を蘇らせるために

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──既得権益がはびこり、レッドオーシャンが広がる批評界よ、さようなら!ジェノサイズの後にひらける、新世界がここにある!

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『美味しんぼ 110』(小学館)

 この原稿を書いている5月初旬現在、マンガ『美味しんぼ』(小学館)をめぐる状況が逼迫している。問題となっているのは福島第一原発を訪れた主人公(山岡士郎)が、帰京後に鼻血を出すという描写だ(「ビッグコミックスピリッツ」4月28日号掲載)。舞台となった福島県双葉町が小学館に抗議を出す事態に発展し、事態は収束の気配すら見せていない。

 私見では、『美味しんぼ』が最も輝いていたのは、単行本でいうと10巻前後まで、ごく初期の間だと思う。当時の山岡は、今では考えられないくらい鋭い戦う牙を持っていた。出される料理にことごとく文句をつけ、薀蓄を垂れ流し、「一週間待っていろ、俺が本物の〇〇を食べさせてやる」と一方的に宣言して去っていく。そして実際に食べさせ、一同を圧倒させる。そんな反骨精神あふれる山岡が、僕は好きだった。

 彼の実父でありライバルである海原雄山との対決も、当時のほうが魅力的だった。「究極のメニューvs至高のメニュー」の頃には、雄山が手心を加えない限り山岡は勝てない、というのが同作の世界観として完成されていたが、初期の雄山は、その思考に柔軟性を欠くところを山岡に突かれて敗北することが何回かあった。例えば雄山は「サバは下魚」という先入観を打破できずに、山岡の出した「幻のサバ」の刺身に膝を屈し、カツオの叩きにはわさび醤油しか合わないと断言して、山岡が紹介した遠洋漁船の船員たちが開発したカツオの刺身にマヨネーズの組み合わせの前に敗北を喫する。この絶妙なパワーバランスこそが、初期『美味しんぼ』の魅力だった。

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