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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第72回

"キュレーション"に人の手は 不要? アルゴリズム利用の "まとめ"サービス

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

 「グノシー」や「スマートニュース」などの新型“キュレーション”サービスがユーザーを集めている。ビッグデータ解析の精緻化によって進んだこうしたサービスは、果たしてインターネットの情報収集でどう機能するのか?

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メディアに対する「タダ乗り」という批判もあったスマートニュース。課題は残るが、ユーザーは増えている。

 キュレーションという言葉の定義が最近、変容してきている。

 インターネット上を流れる膨大な数のニュースを収集し、「まとめ」を提供するようなサービスは、以前はアグリゲーション(収集、集積の意味)と呼ばれていた。これに対してキュレーションは、ソーシャルメディア上で網の目のように張りめぐらされている人間関係という基盤の上で、さまざまな分野の情報を紹介する人(キュレーター)を経由して情報が伝播していくようなことを意味していたのだ。美術館の学芸員であるキュレーターが、アート作品になんらかの付加価値を与えて企画展を開催するように、単体の情報に意味づけを加えてソーシャルメディアでシェアすることが、もともとのキュレーションの定義だった。

 しかし最近では、ビッグデータ解析を駆使して情報をフィルタリングしたり、あるいは横断的な情報の見せ方を工夫したニュースメディアも、キュレーションのひとつとして捉えられるようになってきている。流行りのサービスでいえば前者は「グノシー」であり、後者は「スマートニュース」だ。これらはかつてはアグリゲーションと呼ばれていた部類のものであり、いずれも人間のキュレーターの手を介さない、自動化された情報収集を得意としている。

 この背景には、ここ数年でビッグデータの解析技術が一気に進んだことがある。少し前まで、膨大な情報を仕分けするアルゴリズムで商用化できていたのは、アマゾンのレコメンデーションぐらいしかなかった。アマゾンの場合は、基本的にはCDやDVD、書籍といったエンタテインメント性のある商品を対象としており、興味対象をレコメンドしやすい。この手法を、ニュースのような興味対象を判断しにくい性質のコンテンツに当てはめても、性能は出しにくいのではないかと思われていた。

 ところがビッグデータ技術の進化は、購買履歴のような構造化データのみならず、フェイスブックやツイッターの投稿といった非構造データも解析し、なんらかの傾向を読み取ることを可能にした。結果、人間のキュレーターの手を介さずに、情報収集を可能にする「スマートニュース」や「グノシー」のようなサービスが現れてきたということなのである。

 さらにこの新しいメディアの業界には、流行りのバイラルメディアも位置づけられる。バイラルメディアは静止画・動画などの非言語的なメディアに特化したアグリゲーションだ。新聞や雑誌の代替物がスマートニュースなどのニュースキュレーションサービスだとすると、テレビの代替物がバイラルメディアであると言えるかもしれない。

 これらアグリゲーションは、情報になんらかの付加価値を与えているわけではない。だから狭義のキュレーションとは言えないだろう。ただ「キュレーション」のようなバズワードの定義がすぐに変容していくのは昔も今も変わらず起きていることで、付加価値なしのアグリゲーション=キュレーションというニュアンスが定着してきている状況では、情報収集のメディアすべてをキュレーションメディアと定義するようになるのは間違いないだろう。

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