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【premium限定連載】出版界 ホンネとウソとウラ話 第7裏話

著作権法改正――著者に見限られた紙の出版社はもうオシマイ!?

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 著作権法の改正案が3月14日に閣議決定され、早ければゴールデンウィーク前にも成立する見通しとなっている。

 今回の改正案は簡単に言うと、これまで紙の書籍に認められていた「出版権」を電子書籍にも拡大するという内容だ。出版権というのは著者の許諾を得て、著作物を独占的に頒布することができる権利のことをいう。

 しかし、中小・零細出版社で組織する団体・日本出版者協議会(出版協)がこれに真っ先に噛みついた。3月14日に改正案が出されると、改正案の第79条に示されている「出版権を設定できる主体」が問題であるとして、これの修正を求める声明を発表したのだ。

 出版協の主張を要約すると、改正案第79条は、紙で出版する者(第1号出版権者)と電子で出版(配信)する者(第2号出版権者)とを、著者が選んで各々に出版権を設定できると取れる内容になっている。電子書籍市場をみれば、電子書店で売られている電子書籍のほとんどが紙のリライト版。せっせと紙の本のために編集作業をしてきたにもかかわらず、電子の出版権はアマゾンに、なんていう話がまかり通りかねないわけだ。(正確な条文はこちらから。)

 もちろん、出版権を設定する権利を持つのは著者などの著作権者である。しかし、文章の構成・内容からレイアウトやフォント、表紙デザインに至るまで本というかたちに作り上げることができるのは、編集者がいたからでもある(マンガや絵本などは異なるかもしれないが)。その成果物を、電子書籍を出す際には、ほかの事業者にそっくり持っていかれる可能性があるのは避けたい、ということ。改正案に出版社が反対を主張するのも頷ける話だ。

 ただ、改正案第79条を巡っては、文化庁が「第2号出版権者(電子書籍の出版者)は、(電子書店のような)送信事業者のことを指すわけではない。単なる送信業者は出版権者にはなりえないので、出版権を設定することはできない」という趣旨を出版社に伝えたとされる。ただ、どのような理由でそういった解釈が可能となるのか、はなはだ疑問であり、担当者が言っていることがどこまで担保されるかも定かではない。しかも、法律は解釈の仕方によっていか様にも代わるので、これが事実なのであれば、国会審議において、それを明文化しておく必要があるだろう。

 しかし、なぜ出版社は個別の出版権の設定をこうも嫌うのだろうか? 確かに、先のように個別に設定することができるのであれば、デジタル版だけ印税の高い他社にしようとする著者が出てくることも、考えられないことでもない。だが、著者と編集者の関係はそんなに希薄なのだろうか? 

 改正案起草のために開かれた有識者と利害関係者の会合では、主にマンガ家や絵本作家らの団体が、出版社の団体・日本書籍出版協会が提案する「紙と電子の出版権の一体的設定」に強く反対した。とくに、『天上の虹』や『アリエスの乙女たち』などの作品がある里中満智子氏、『あしたのジョー』の作者ちばてつや氏といった大御所マンガ家は、強硬に「個別の契約」を主張し続けた。なぜそこまで反発するのか、その理由を裏付ける発言を里中氏がしている。

 少々長いが、氏の発言を引用する。

「出版社はみんなお行儀がよくて真面目なところだというのが前提になっているような気がします。山ほどいろいろな出版社があって、その多くはちょっと口にできないようなことでひどいことをしている。口にしちゃってもいいんですけれども、ただいま現在でも電子出版を目指して勝手に契約書を作ってきて、それが何と著作権保護期間中生きるという契約書を平気で作ってくるところもあります。それにサインしないと本を出してもらえないと言って、若手とか、力がないと自分で思っていらっしゃる方はただ泣いているだけですね。

 昔からこういう図式はありました。現在は電子書籍と紙の本が一体化した契約書というのが一般的に出回っております。その中ではロイヤリティー、それまで書き込まれてしまっております。これはいかがなものかと。このロイヤリティーの根拠を示してくれと聞きましたところ、本当、簡単な言い方で申し訳ないんですけれども、小うるさいという扱いをされるわけです。本の出版物の場合は、発行部数掛ける売値掛けるパーセンテージでこれまで算出されてきました。

 でも、電子書籍は今、ほとんどの契約書が純益の何%。そのパーセンテージもすごく低いです。著者の立場に立ってみましたら、外資系でも何でもいいから、もっと潤沢なロイヤリティーをくれるところと契約したいと思う人がいてもおかしくないと思います。読者のもとに届くのであれば、書店さんはどこでもいいと思う人も多いです。

 だけど、私たちは日本人ですし、これまでつき合ってきた日本の出版社、ましてお行儀よく紳士的であった出版社が、何とかこのままずっと頑張ってくれるようにと随分応援してきたつもりでいますけれども、そういうのを崩していくようなとんでもない契約書が出回ってしまうと、どうしてもお行儀の悪い出版社の方に対抗するためには、電子書籍は電子書籍で別の契約をしないと危なっかしくてしようがないという気持ちにもなります」(原文ママ)

 里中氏のような大御所ですら、出版社に対してこんな感情を抱いていたのか、と驚いてしまう内容だ。出版社側も、まさか公の場でこれほどの業界事情をつまびらかにされるとは思ってもいなかっただろう。この話を聞いた有識者からは、「著者と出版社の信頼関係が築ければ、自ずと紙も電子もセットで設定してもらうことができるはず」などと出版社への信頼不足に苦言を呈する場面もあった。

出版社への不信感は里中氏だけではない。ちばてつや氏も、この法改正の前段で大手出版社が中心になって著作隣接権の獲得を訴えたことに対し、「著作者側は寝耳に水。驚いた」などと発言。不信感を露にし、著者をないがしろにする出版社にクレームをつけた。

 こうした著者側の意向が汲まれたがゆえに、先の改正案につながったと考えることができる。

しかし、なぜ出版社は自らの主張に共感してもらうために事前にマンガ家などの著者団体と打ち合わせをし、共闘することができなかったのだろうか?  同じ業界で、二人三脚で歩んできた著者ならば多少はごねても、賛成しくれると高をくくっていたのだろうか。

 それとも出版社の代弁者のように出版社への権利付与を主張した中川勉強会(超党派の国会議員と、出版社や著作権団体などで構成する「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」=会長は中川正春議員)や活字文化議員連盟(超党派の議員連盟=出版者の権利獲得を後押し)が味方についていれば、言い分が通るとでも思ったのだろうか。

今回の法改正は、著作隣接権を主張してきた出版社にとっては惨敗といえる内容だ。それもこれも、著者を軽んじ、協力を得る努力を怠ったということに尽きる。

 改正案が今国会で成立すれば、来年1月1日から新たな著作権法が施行される。その間に出版社と著者との間で実務レベルでの具体的な契約書のたたき台の作成に取り組むことになる。しかし、著者の、とくにマンガ家と絵本作家の反応をみていると、難航することは必至だろう。しかし、ここで出版社が著者との関係を修復しないと、出版社が最も恐れているAmazonの出版社化がアメリカのように日本でも進んでいくだけ。そうなると、さらに出版界はAmazonの脅威にさらされることになる。

(文/佐伯雄大)


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