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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第61回

アベノミクスが旗を振る"産業支援政策"で真に支援されるべきITビジネスのあり方

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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『アベノミクスのゆくえ 現在・過去・未来の視点から考える』(光文社新書)

 株価の上昇に円高の解消で、にわかにもてはやされる“アベノミクス”。その安倍政権の景気対策でも重要視される成長戦略とは、IT産業もむろん無縁ではない。企業を育てるべくIT産業の支援にも力を入れるという同政策だが、真に効果を挙げられるのはどういった形での産業支援なのだろうか?

 アベノミクスの「第三の矢」である成長戦略に注目が集まっている。成長戦略は金融政策と違ってすぐには効果が出ないが、持続的な成長を実現していくためになくてはならないものだ。

 日本の場合特に問題なのが、ITがいまだに社会のさまざまな場面に導入されていないということ。ITが成長のエンジンになるというのは過去に繰り返し言われ、私が編集委員を務めている総務省の情報通信白書でも毎年のように指摘している。

 安倍政権のIT戦略総合本部が、「世界最先端IT国家創造」宣言をまとめている。政府の持つデータのオープン化やITシステムの統合などを盛り込んだ意欲的な内容で、ぜひ実現してほしいと思う。しかしそこでひとつ問題になってくるのは、産業振興をどうするかという問題だ。

 政府の産業政策には2つある。規制政策と振興政策だ。データのオープン化は規制緩和のひとつで、規制政策にあたる。もうひとつの振興政策は、例えば民間企業の持つ技術力に政府が資金を出して実証実験をさせたり、産業構造を転換させる支援を行ったりするものだ。昨年末、日経新聞が「公的資金で製造業支援」という記事を掲載したことがあった。政府が公的資金を使って経営不振の製造メーカーの工場や設備を買い取り、業種の転換を図らせるというもので、これも振興政策にあたる。

 しかしこうした振興政策が本当に妥当なのか? という問題がある。

 そもそも政府が将来のビジネスの可能性を見通して振興させるなんてことができるのか、という根本的な疑問もある。実際、IT分野だけを見ても1980年代の第五世代コンピュータ計画やシグマプロジェクトなど、政府が旗を振った振興政策は多くが失敗している。

 加えていま浮上してきているのが、このグローバル化の状況の中で「いったい誰を支援するのか?」という問題だ。

 例えば経営不振のパナソニックやシャープを政府が支援し、経営を立て直させたとしよう。もしその後にパナソニックが海外進出を加速させ、雇用が日本から流出してしまったら? さらに登記上の本社をルクセンブルクやアイルランド、ケイマン諸島などの海外のタックスヘイヴン(租税回避地)に移し、日本政府に税金を払わなくなってしまったら?最終組立も海外で行い、日本のGDPに寄与しなくなってしまったら?

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