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神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第75回

再生可能エネルギーが問いかける日本の未来ビジョン

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ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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自然エネルギー財団監修の著書『孫正義のエネルギー革命』

[今月のゲスト]
大林ミカ[公益財団法人自然エネルギー財団ディレクター]

萱野稔人[哲学者]

 2012年7月1日より、日本でも固定価格買取制度(FIT=Feed-in Tariff)が導入された。わが国の再生可能エネルギーの推進を示す第一歩となった同制度だが、導入から半年あまりたった今、再エネはどの程度普及したのだろうか。自然エネルギー財団のディレクターを務める大林ミカ氏、哲学者・萱野稔人氏と議論を深めた。

神保 今回は再生可能エネルギー(再エネ)がテーマです。昨年7月1日に「固定価格買取制度」(FIT=Feed-in Tariff)が導入され、そろそろその成果やここまでで明らかになった課題を検証してみたいと思います。

 FITは電力会社に対し、個人や事業者が太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って発電した電気を一定の期間固定価格で買い取ることを義務づける制度です。なかでも太陽光が42円/kWhと特に優遇されていましたが、自民党政権になってからそれを見直そうという動きが出ています。茂木敏充経済産業大臣は1月21日の記者会見で、「30円台の後半に引き下げることができる」と発言し、現在4月からの引き下げに向けた調整が進んでいます。

 今回のゲストは、再生可能エネルギーに詳しい自然エネルギー財団の大林ミカさんと、哲学者の萱野稔人さんです。早速ですが、大林さんは茂木大臣の発言をどう見ますか?

大林 確かに太陽光発電に対する固定価格のタリフ(買取価格)は世界的に見ても非常に高い。しかし、これを36~38円に下げるとなると、現在の価格から実に10%下がることになり、これはビジネスをする側にとってはかなりの不安定要因になります。

 本来であれば、「1年経過したら○%下げます」と、事前に設定しておくべきで、そうでなければ事業者は計画を立てられません。メガソーラーを建てる事業者も、あるいは風力発電はもっと、数カ月単位ではなく、プランニングに1年、長いものは3年はかかります。そもそも現在の制度の中で、自然エネルギーの妥当な価格というものを政府が把握してなかったのだ、ということもわかりました。

神保 さて、宮台さんも一部行政に参画している世田谷区では、住宅の屋根に太陽光発電を普及させる政策「ヤネルギー」が進んでいます。実際に太陽光発電を導入しているご家庭を取材して、収支をまとめてみました。

 このご家庭の太陽光発電システムは土台工事も含めて総工費が143万円。世田谷区はシャープ製のものを大量に一括購入しているので、ほかの地域よりも安くなってこの値段だそうです。

 これに対して、国から10万7000円、都から30万6000円の補助金が出たそうです。これらを差し引くと、自己負担は102万円。電気代の削減見込額が年間約7万円、売電の売上見込が年間約12万9000円ということで、年間約19万9000円の利益が見込まれており、約6年で自己負担分が回収できる計算になります。

 もし茂木大臣が言った通りに太陽光発電の固定買取価格が下がれば、現在急ピッチで進んでいる普及にブレーキがかかる可能性はありますか。

大林 計算上はそうなりますが、茂木大臣がおっしゃったのは、10kW以上の大きな太陽光発電についてだと理解しています。

神保 一般家庭の買取価格は4月以降も変わらない可能性が高いのですね。

大林 そうですね。ただ、家庭の場合は、買取期間が10年と短くなっていますし、消費して余った分しか買い取ってもらえません。10kW以上は20年間なので、家庭の発電においても長期の制度が必要だと思います。

神保 いずれにしても、現在の条件であれば、このご家庭は6年で元を取ることができ、7年目からは利益が出ることになります。故障に対してもシャープの保証がついているので、7年目以降の利益はほぼ保証されている。これは非常に条件がいいと感じました。しかし、保坂展人区長に話を聞いてみると、当初区が予想したほど普及は進んでいないそうです。区長の説明では、今回のように収支をすべて説明すれば「それならやってみよう」という人はもっといるかもしれないが、そのためには電気料金の明細や売電の収入などをすべて説明しなければならない。保坂さんは「周知が徹底されておらず、得をする仕組みだということが意外と知られていないのでは」と話していました。

宮台 情報に加えて、太陽光発電システムを設置する屋根のスペックが重要です。世田谷区の行政にかかわっている立場もあって僕も自宅に取り付けようとしましたが、自宅は屋根に大きいガラスがいくつもはめ込まれている分、パネル設置面積が小さくて屋根形状も特殊です。設置するには補強装置などが必要で、コスト高になるため、補助対象から外れました。ヤネルギー申込者のかなりの割合が、屋根が基準を満たさなくて設置できなかったのです。

神保 改めて初歩的な話になりますが、FITという制度そのものについて簡単にご説明いただきたいと思います。ここまでのお話をまとめると、太陽光で発電すれば、10kW以上の大口であれば20年間、家庭の場合は10年間、電力会社が42円/kWhで電力を買ってくれる、と考えていいのでしょうか?

大林 設備が認定されて、送電系統につなぐことができて、電気を売ることができる状態であり、昨年の7月1日から今年3月31日までに手続きをすべて終えていれば、確かに42円/kWhという価格で買い取ってもらえます。42円は税込の価格です。

神保 今後、仮に買取価格が下がっても、42円に設定されていた期間に手続きを終えた人は、10年間は同じ額で売ることができるということですね。

大林 はい。固定価格制度というのは期間を限定して、発電した分についてお金を保証するという制度です。自然エネルギーは、設備投資の資金はかかるものの、燃料代が必要ないため、メンテナンス費用も含めたランニングコストが比較的少ない。ですから、電力を買ってもらえるということが非常に重要なんです。

神保 投資としては悪くないということでしょうか?

大林 ただし、ローリスク・ローリターンだと考えたほうがいいと思います。例えば、化石燃料のように価格が乱高下して大きく儲かるということはない。恒常的に少しずつ儲けていくというのが、自然エネルギーの考え方です。また、エネルギー自体の密度が薄いため、分散型で運転していくのが、自然エネルギービジネスのやり方だと言えます。

宮台 世田谷区や東京都の補助金も同じですが、ゲームに早く参加した人ほど、買取額の途中変更がないので確実に多くの補助金を得られます。大林さんのお話にあった通りです。問題は、後から参入した場合にどれだけ買取価格が安くなるかです。それが早期導入のインセンティブを決めるからです。

神保 太陽光発電の買取価格がほかに比べて高くなったのは、どういう経緯があったのでしょうか?

大林 やはりコストが高いからです。しかし、ドイツを見てみると、すでに買取価格が家庭用でも電気代より低い20円/kWh以下になっている。量産効果で太陽光パネルの価格は下がってきているんです。FITの素晴らしいところは、自然エネルギーに量産体制を準備することで、設置コストを下げ、また、発電量に応じて支払われるので、より多く発電するための効率競争を加速する制度だということです。つまり、早く参入するほど利益を得ることができるというのが、ビジネスに参入するインセンティブを与えている。実際、2004年のドイツでは、太陽光発電が日本円に換算して60円/kWh以上で買い取られていました。

 日本での買取価格が高いことには、実は理由があります。つまり、他国に比べて、そもそも再生可能エネルギーを導入するコストが高い。発電事業者として大きな施設を造ったとして、果たして送電系統につないでもらえるのか。その協議に、お金も時間もかかってしまいます。先進国では一般的に、発電、送電、配電の業者が分かれていますが、日本では電力会社が一括で管理しているので、競争がない。そして、発電業者は比較にならない程規模が小さいから、電力会社の言いなりにならざるを得ないのです。

神保 そういうハンディがあることも踏まえた上で、日本での再エネ発電設備の普及の度合いはどうでしょうか?

大林 自然エネルギー庁が公表しているデータを見てみると、2011年度末の自然エネルギーの導入量は、太陽光(住宅)が約440万kW、太陽光(非住宅)が約90万kW、風力が約250万kW、中小水力(1000kW以上)が約940万kW、中小水力(10 00kW未満)が約20万kW、バイオマスが約210万kW、地熱が約50万kWで、合計約200 0万kWとなっています。

 一方、FITの効果で、12年11月末までに認定を受けた設備容量は、合計約364・8万kWで、太陽光(住宅)が約72・7万kW、太陽光(非住宅)が約253・5万kWと際立った数字です。

神保 253・5万kWというのはすごい。よく「原発1基で100万kW」と言われますが、これは原発2・5基分くらい発電能力が増えたと見ていいんですか?

大林 そうですね。ただ、これはあくまで容量であって、設備利用率が違う。太陽光は13~14%くらいです。しかし、電力使用量のピークを非常に上手くカバーする発電だと思います。

神保 太陽光発電は、暑い真夏の昼間など、電力が必要なときに効果を発揮すると。

大林 そうです。だから設備容量が伸びているのですが、買取価格を下げると、明らかにこの熱は下がっていく可能性があります。一方で、太陽光偏重になり、ほかの発電があまり伸びていない、という状況もあります。今は増加している自然エネルギーの90%以上が太陽光によるものです。

宮台 太陽光偏重を修正するために、風力の買取価格がもう少し高いといいなと思います。住宅用の小規模風力発電でも、風車は太陽光パネルよりもずっと目立つので「うちは発電をやっているぞ」というデモンストレーションになる。これもインセンティブになります。

神保 風力発電は、出力20kW未満の場合、固定買取価格が57・75円と高いですね。

大林 20kW以上になると突然23円まで下がりますが、それでも大規模な商業用風力発電にとっては、非常にいい価格だと思います。しかし、いくら高い価格が設定されていても、結局のところ買ってもらえなければ意味がない。

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