サイゾーpremium  > 連載  > 学者・萱野稔人の"超"哲学入門  > 【連載】民主主義は限界に達したのか?
連載
萱野稔人の"超"現代哲学講座 第30回

自民党の"金融緩和による公共事業の促進"で将来世代が負担を押し付けられる!!民主主義の原理的限界

+お気に入りに追加

──国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか……気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。

第30回テーマ「民主主義は限界に達したのか?」

1302_kayano_book.jpg

[今月の副読本]
『完訳 統治二論』
ジョン・ロック/岩波文庫(10年)/1386円
政治権力の起源は、国民たちの合意、すなわち社会契約 にあるべきだ――。1690年に出版されて以来、民主主義 の核心として読まれ続けた、イギリスの哲学者による政治 学の古典にして名著の完訳版。


 2012年は総選挙によって幕を閉じました。投票の結果、自民党が大勝し、3年3カ月続いた民主党政権に代わって再び政権を担うことになりました。

 ただし「民主主義の限界」といっても、それは死票が多い現行の小選挙区制の限界のことではありません。たしかに今回の選挙では、自民党は小選挙区で有効投票総数のうち43%の票を得たのに対し、獲得議席数は300議席の79%にあたる237議席を獲得しました。しかし、こうした結果になることは現行の小選挙区制を採用した時点で予想できたことで、結果がでてからそれを騒ぐのはフェアではありませんし、さらに根本的なことを言えば、どんな選挙制度にせよ国民の代表者を選挙するということは、多かれ少なかれ民意がデフォルメされたかたちで代表者が選出されることを不可避的にともないます。選挙制度の問題が重要ではないと主張するつもりはさらさらありませんが、それは民主主義そのものの限界とはまた別の問題です。「民主主義の限界」ということで問題にしたいのは、不利益分配の難しさです。つまり、民主主義のもとで利益分配を超えた政策をおこなうことは果たして可能なのか、という問題ですね。

 今回の総選挙で自民党は大胆な金融緩和と公共事業をつうじた景気対策を政策として掲げました。この政策のポイントは、増税をしなくても公共事業をバンバン打てる、というところにあります。公共事業をすれば、たしかにそれだけ仕事が増えて、雇用が生まれ、景気を押し上げてくれます。しかしそれには財源が必要で、本来ならその財源は税収からまかなわれなくてはなりません。既存の税収で足りないのであれば、増税ということになるでしょう。事実、2012年度の政府予算は、歳出が約90兆円であるのに対して、税収は約42兆円しかありませんでした。印紙収入などを合わせても46兆円程度です。すでに予算の半分ほどが赤字なんですね。これでは増税をしなければ、思い切った財政出動による公共事業を打つことはできないでしょう。ただし、政府が国債を発行して、借金をするのであれば、さしあたっては増税をしなくてすみます。そして、日本銀行がそれらの国債を最終的に買ってくれるという方針(金融緩和の方針)がでていれば、たとえ政府が借金まみれになっていても、民間の金融機関は安心して国債を買うことができるのです。普通なら、借金まみれになっている相手がいくらお金を貸してくれといっても、誰も――高い金利でなければ――お金を貸しませんよね。しかし、お金を発行している中央銀行がその借用書をそのまま買い取ってくれるとなれば話は別です。借金が多い相手にも安心してお金を貸すことができるでしょう。まさにここに、大胆な金融緩和と公共事業の抱き合わせの狙いがあるのです。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2024年5月号

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ