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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第63回

未来を見据えた選択のため権謀術数も辞さない指導者

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雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。

『リンカーン』

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「奴隷解放宣言」で知られるアメリカ16代目大統領のエイブラハム・リンカーンの、大統領としての最後の数カ月を描いた作品。リンカーンは奴隷法を定めた合衆国憲法13条を改正するため、あらゆる手段を講じていく。

監督/スティーヴン・スピルバーグ 脚本/トニー・クシュナー 出演/ダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールドほか 日本では2013年4月より全国ロードショー予定。


 スティーヴン・スピルバーグがエイブラハム・リンカーンの映画を作ろうとしている」と報じられたのは2000年頃だった。偉大な大統領の生涯と南北戦争を描く超大作になる、と言われていたが、12年越しに完成した『リンカーン』は、そういう大作ではなかった。

 ゲティスバーグの演説も奴隷解放宣言も、『リンカーン』には登場しない。この映画で描かれるのは1865年1月の下院議会だけだ。

 そこで論議されたのは、合衆国憲法第13条だった。「奴隷制もしくは自発的でない隷属は、アメリカ合衆国内およびその法が及ぶいかなる場所でも存在してはならない」。これは1862年9月の奴隷解放宣言の法制化であり、その後一切の奴隷制度を禁止するために必要だった。『リンカーン』は、この憲法改正のためのリンカーンの知られざる「裏工作」だけを描いた映画なのだ。

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