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「テクノロジーから見る! 業界アウトルック」No.05

厚労省主導で進む健康情報の電子化は 「究極の殺人者」を生む可能性さえある!?

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もはやどんな事物もテクノロジーと無関係には存在できないこのご時世。政治経済、芸能、報道、メディア、アイドル、文壇、論壇などなど、各種業界だってむろん無縁ではいられない──ということで、毎月多彩すぎる賢者たちが、あの業界とテクノロジーの交錯地点をルック!

岩波 明氏の著書『精神科医が狂気をつくる』

[今月の業界と担当者]
医療業界/岩波 明(精神科医)

──昨今、病院で治療を受けた際、診療内容の明細をプリントアウトされて受け取ることが普通になった。一見便利になったかにも思われるこの状況の背景には、「医療データの電子化」という“国策”があった。生まれてからの全治療データという「究極の個人データ」にアクセスできてしまうことの危険性について、著作も多い気鋭の精神科医が警鐘を鳴らす!

医療業界とITというテーマから私がまず思いつくのは、アメリカの人気作家ジェフリー・ディーヴァーの小説だ。ディーヴァーといえば、首から上と左手の薬指しか動かせない“安楽椅子探偵”リンカーン・ライムを主人公とするシリーズが人気で、1999年に映画化された『ボーン・コレクター』がよく知られている。このシリーズの中に、『ソウル・コレクター』という作品があるのだ。

 犠牲者を選んで監視し、その情報を集めて罠にはめる、冷酷な殺人者ソウル・コレクター。彼は電子情報を操る達人だった。住所、氏名、年齢、職業、身体データ、携帯の電話番号といった基本的な情報から、趣味や交友関係、保有資産やクレジットカード情報まであらゆる個人情報を握って、被害者を破滅させる。自分で犯した殺人事件を、無垢の人物の電子データに不正アクセスして殺人者に仕立て上げることによって、罪を押し付けるのである。

 この本を読んで空恐ろしくなるのは、だだ漏れの個人情報のことだ。個人の特性が電子化されれば、それはいくらでも悪用可能だからである。

 現在、医療情報の電子化がかなりのスピードで進められている。これを推進しているのは厚生労働省。まさに「国策」なのだ。医療のIT化に大きな利点があるのは確かだが、同時にマイナス面も少なくない。それどころか、個人の健康情報が丸裸にされてしまうという、極めて恐ろしい状況も起こりうる。

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