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批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

宇野常寛[批評家]×古崎康成[テレビドラマ研究家]

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堺雅人の演技の達者さ、幅の広さが光りまくりだった『リーガル・ハイ』。ぶっ飛びすぎのキャラクターに、ファンでも度肝を抜かれた!?

 2012年4月期のテレビドラマは、いわゆる「大作」は不在のクールだったが、そんな中で異色の輝きを放って話題を呼んだのが法律モノの『リーガル・ハイ』(フジテレビ)だ。堺雅人の久々のドラマ主演作を手がけたのは、『外事警察』『相棒』などで知られる脚本家・古沢良太。ドラマファンの間では以前から人気の高かった彼が、本作では新たな境地を見せた。

古崎 今クールのドラマは、『ATARU』【1】『鍵のかかった部屋』【2】を筆頭に、ミステリアスな展開で魅せる1話完結型の謎解きものが多くありました。『リーガル・ハイ』もその路線上にあるドラマだと言えます。いずれも見応えある作品でしたが、この対談を控えてそれぞれ観直してみたところ、『鍵のかかった部屋』は相沢友子さんがメインの脚本なのですが、全話を担当していないこともあって出来にムラがあり、2度目に観ると結構辛い回もある。『ATARU』は、後ろでいろんな小ネタをやっているので辛いということはないんですが、『リーガル・ハイ』のほうが物語がシンプルだけに響いてくるところがありました。

宇野 『ATARU』も『鍵のかかった部屋』も第1話から非常に作り込んであるレベルの高いドラマだと思います。『ATARU』はまさに 植田博樹プロデューサー【3】がこれまで培ってきたノウハウに、演出の木村ひさしが参加していた『TRICK』(00年/テレ朝)のフォーマットを当てはめた正当な「アップデート」【4】ですね。中居君にサヴァン症候群の主人公を演じさせるという変化球も決まっていて、フォーマット自体の古さを感じさせない。『鍵のかかった部屋』はフジテレビが植田作品を「意識して」(笑)成功させた『ガリレオ』(07年)のアップデート版で、演出の小技やドラマオリジナルのキャラクターを活用したコメディ調の原作アレンジが効いていた。『リーガル・ハイ』はこの2つのドラマと比べたとき、作り込みは甘い。けれど物語とキャラクター、役者の力が頭ひとつ抜けていて、視聴者を引き付ける力があったと思うんです。

『リーガル・ハイ』は“脚本家・古沢良太【5】の作品”という感じがします。脚本の力がすごく大きい作品だった。彼のキャリアに照らせば、『相棒』【6】という刑事ドラマの枠の中で社会における正義というテーマを培い、それが『外事警察』【7】に繋がる。そこで現実主義者と理想主義者の対立を描いていた構造に、「キモ格好良いイケメン」という『鈴木先生』【8】の要素を入れてドーンとコメディ調にしたものが『リーガル・ハイ』だと思うんですよね。もちろんスタッフ的には『ジョーカー』【9】の血が大きいんでしょうが。

古崎 古沢さんはこれまでかなり描き込んだ濃厚な世界を映像にしてきましたが、『リーガル・ハイ』はかなり軽いタッチに仕上がっていますね。演出を担当した石川淳一さんと城宝秀則さんの2人は共同テレビの正統派の演出をやる人で、プロデューサーの稲田秀樹さんも共同テレビの代表格といえる人です。そういった人たちが古沢さんと組んだことで、うまい具合に角が取れた作品に仕上がったのではないかと思います。

 共同テレビが制作したドラマには三谷幸喜作品や『ショムニ』(98年~/フジテレビ)などがありますが、デフォルメが巧く、現実からかなり乖離した描写でも楽しめる。第4話の日照権をめぐる裁判で反対派住民の集会を広角で撮っているシーンなんて、まさに『ショムニ』に出てくる画面割りでしょう。そうした共同テレビ的な演出が、古沢さんとうまくフィットしたんでしょうね。

宇野 僕の『リーガル・ハイ』のファースト・インプレッションは、「こういう堺雅人を観たかった」ということなんです。 『鈴木先生』では、長谷川博己という役者に「イケメンのキモい顔芸」をひたすらやらせたわけだけど、今回は古美門研介役の堺雅人がそのポジションでした。堺雅人という役者に与える役を考えるとき、ある種の女性が持つ性欲に率直に訴えると映画『南極料理人』(09年)になりますね。あれはあれで格好良いんですが、『新選組!』(04年/NHK)とか『篤姫』(08年/同)が好きだったようなファンが観て楽しいのは、やはり過剰な顔芸が光る今作の「キモ格好良い」堺雅人でしょう。

古崎 古沢さんのシナリオを読むと、特にアップテンポでまくしたてるようにしゃべる指定はしてないんですよ。堺さんとの対談でも、古沢さんは「もっとクールにやると思っていた」と語っていました。古美門のキャラクターは、堺さんと共同テレビの味付けが巧かったんでしょうね。

宇野 それと今回の作品では、新垣結衣も良い存在感を出しています。僕が最初に新垣結衣を意識したのは、『Sh15uya』(05年/テレビ朝日)という深夜特撮ドラマでした。その後ポッキーのCMでブレイクしましたが、最近ではドラマに出演しても特に印象に残らないことが多かった。ところが『リーガル・ハイ』では堺雅人の過剰さに負けていないし、近年の彼女の出演作の中では一番良いでしょう。

 新垣結衣演じる黛真知子に対して、「朝ドラのヒロイン」という強烈な比喩が出てきます。ここにも見られるように、古沢さんの細かい悪意が随所に効いている。第1話からして、自分探し系森ガールを、あんな風に「痛いキャラクター」として登場させています。でも、あんなブログ女子は日本中にいるでしょうからね(笑)。それから、里見浩太朗が大和田伸也や伊吹吾郎と同じフレームに収まるたびに『水戸黄門』(69年~11年/TBS)のテーマを流すような遊びもありました。

古崎 新垣結衣が弁護士役のヒロインを演じた作品といえば昨年『全開ガール』【10】がありましたが、これはもう、その制作スタッフに向けて「新垣結衣はこう使うんだ」と言っているようなものでしたね。里見浩太朗については、彼が演じる古美門事務所の事務員・服部は、毎回料理を作っていますね。これだけ新しいタイプのドラマでも、食事の場面だけは皆でおいしい、おいしい、と食べていた。食事のシーンというのは日本のドラマのひとつのフォーマットで、たとえば『それでも、生きてゆく』(11年/フジテレビ)などでも、どんなにギリギリの環境にあっても皆で食事をしていました。この作品でも、どんなにお互いいがみ合っていても一緒に食事をしていたのが印象的です。

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