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連載
神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第67回

国策として邁進されてきた原発の非代替性

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ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

今月のゲスト
山名 元[京都大学原子炉実験所教授]

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山名 元氏の著書『それでも日本は原発を止められない』(産経新聞出版)。

 7月1日に大飯原発が再稼働を開始した。これに伴い、大飯原発前や総理大臣官邸前をはじめ、全国で反原発デモが巻き起こったことも記憶に新しい。反原発の気運が一層高まる中で、京都大学原子炉実験所の山名元教授は一貫して原発の必要性を説き続けている。批判を受けながらも、氏が主張する原子力の重要性とは―。

神保 3・11以降、マル激では原発についてさまざまな角度から議論をしてきましたが、もしかすると今回はその中でも最も重要なものになるかもしれません。ゲストは原子力界の重鎮、京都大学原子炉実験所の山名元教授です。最近はメディアで原発を擁護したり推進論を主張するのが難しい状況だと思いますが、そのような状況の下でも山名さんは一貫して原発の必要性を説いてきました。そのために「方々で叩かれている」そうですが、今回はそのような表層的な感情論ではなく、中身のある冷静な議論を行いたいと考えています。

宮台 3年前に神保さんとCOP15(気候変動枠組み条約第15回締約国会議)でコペンハーゲンに行った頃まで、僕は、再生エネルギーの発展途上で不安定さを吸収する過渡的なベース電力源としてCO2を出さない原子力に希望を託する立場でした。欧米のディープエコロジストにはスチュアート・ブラントをはじめとして珍しくない立場です。ではなぜ僕が脱原発派になったのか、その理由をお伝えできるでしょう。

神保 具体的な議論に入る前に、3・11以降の原発をめぐる政治や世論の動きを、山名さんはどう受け止めていますか?

山名 福島の事故で、原子力発電所の危険な側面が見えました。国民のみなさんが不安を抱くのは当然で、われわれ技術者も、技術的な盲点があったことに対して猛反省している。そして、私は原発を事業として推進したいわけではありません。つまり「原発擁護・推進派」というより、「必要派」という立場です。

 原子力問題には、4つの観点が同時に存在しています。ひとつは、日本が今後どういう社会を目指していくのかという「国の方向性」。次に、客観的かつ物理的な「原子力発電の安全性」。3つ目は、それをマネージしている組織や事業が信用できるのかという「組織信用論」。最後は、多くの人が原子力という化学現象について詳しくないために、大きな不安を抱えてしまうという、核科学の専門的知と一般市民の感性の間にギャップが存在することです。

 福島原発事故以降、この4つのファクターの中で安全性の話はあまりされておらず、組織・制度に対する不信、放射能への不安などに議論が集中しています。つまり、「国として何を目指し、そのために原子力はどう機能するのか」「物理的な安全性はどうなのか」といった部分がほとんど無視されたまま、いわば“原子力悪人説”だけが燃え上がっている。

 重要なのは、「推進派か、反対派か」という二項対立にせず、冷静に考え直すことです。事故から1年が経過しても、政治の混乱やポピュリズム的な動きがあり、重要な点を議論する段階に進むことができないのは問題だと考えます。

宮台 社会学的には原発問題は「技術の社会的制御」の問題です。これは「技術」と「社会的制御」に分けられます。「技術」の問題は「こうすればああなる」というif-then文の集積からなる条件プログラムです。他方「社会的制御」は目的プログラムで、そもそもなんのための原発かという〈大目的〉と、大目的に資するにせよ社会の何を侵害したらダメかという〈許容限界〉を含みます。つまり価値の問題です。

 条件プログラムとしての「技術」面は、山名さんの第二項目「原子力の安全性」に、目的プログラムとしての「社会的制御」面は、山名さんの第一項目「国の方向性」・第三項目「組織信用論」・第四項目「知識ギャップ」に関連します。でも、「国の方向性」に合致しないと判明したり「知識ギャップ」ゆえのセンチメントに対処できないとなれば、是々非々で原発政策を見直す必要があります。現にシュレイダー政権以降のドイツは今世紀に入って【1】推進→【2】抑制→【3】推進→【4】抑制と2往復した。ところが日本は何があろうが推進一辺倒。結局のところ「社会的制御」は専ら「組織信用論」に集約されます。

 日本はここに問題がある。丸山眞男によれば、陸軍参謀本部にも海軍軍令部にも現状分析部署と政策立案部署があり、背後に利権ネットワークを抱える政策立案部署が「えらい」とされましたが、政策立案部署が、現状分析部署を無視して専ら権益だけ参照して政策シナリオを作り、それに合わせて現状分析部署が現状分析を書き替えました。

 丸山はここに日本的組織の出鱈目を見ます。権益だけを見て政策を作り、政策にとって「見たくないもの」を見ない〈心の習慣〉です。丸山は、個人的能力の欠落よりも文化に属する問題だとします。実際、武器弾薬どころか水も食料の補給も欠いた出鱈目な作戦立案について、東京裁判ではA級戦犯全員が「内心忸怩たる思いはあったが、自分にはどうしようもなかった、空気に抗えなかった、やめられないと思った」と証言したわけです。

 ナチスのように「狂気の大ボスに率いられたナラズ者集団の暴走」が問題なら、属人的に処理できるのですが、日本のように「大ボス不在のエリート集団の暴走」が問題なら、問題を組織や人に帰属できず、文化の手当てという困難な問題になります。今般の原発事故で明らかになったように、日本の行政官僚組織の文化は戦中も今も不変です。だからアメリカやドイツと「技術」面で同一の条件プログラムを山名さんのような科学者が提示できても、日本は適切な「社会的制御」を期待できない。「ブレーキのない車」なのですね。

神保 つまり、国策として原子力を扱う上で必要となる議論ができるような民度や政治家の能力、政策決定のシステムといったものが日本にはまだ備わっていないと。それゆえに、宮台さんは少なくとも今の日本では、原発をやめるべきだと考えるようになったということですね。

 そこでまず山名先生に聞かなければならないのは、原発必要論の合理性です。なぜ日本には原発が必要だとお考えなのでしょうか。

山名 資源を持たない日本は、貿易に依存しながら経済活動し、安定した社会を作ることを目指してきました。エネルギー自給率は4%しかなく、それでも安定的な社会を構築していくためには、「海外から独立したエネルギー源を持っている」というポテンシャルのある状態を維持しながら各国とやり取りしていくことが、当面は必要でしょう。バイイングパワーや国際的な技術的優位性を維持するためにも、自国産エネルギーとして挙動するエネルギー源は重要なのです。

 原子力の特徴は、火力とは異なり、ほんの少量の燃料を入れてしまえば、あたかも自国にあった燃料のように扱えること。備蓄効果も、燃料の潜在的な埋蔵量も多く、総合的にエネルギーインディペンデンスに貢献する力を持った技術です。

 例えば、火力発電は電気代の半分が原価に使われ、うち9割5分が燃料を買うために、海外に支払われてしまう。しかし原子力は、燃料費をほとんど海外に払わなくて済むため、その分、自国内の労働力や部品作りに資金を回すことができます。

 また、代替するエネルギーとして考えられる自然エネルギー、再生可能エネルギーについては、過渡期において大きな投資が必要になり、技術的な不確実性もある。電源として不安定であるため、バックアップを考えなければならず、その役割は火力発電が担うことになります。つまり、海外に依存した火力発電とペアで考える必要があり、自国産エネルギー的な振る舞いができる原子力に取って代わるものには、現状ではなり得ません。一定期間において、安価で安定したエネルギーを供給し続けるという役割が、原発にはある。それゆえに、私は原発が必要だと考えます。

神保 原子力を代替するエネルギー技術が確立されれば移行してもいいが、それまでは維持すべきだ、ということですか。

山名 そうです。原発を永久に維持する必要はなく、私としては100年くらい化石燃料を消費せず、安定して電力を作るためのキーだととらえています。100年もたてば、私たちの孫の世代が、もっと賢いことを考えるでしょう。

宮台 日本にある資源を使い、不安定さがない点で、木質を用いたバイオエネルギーや地熱を利用した発電システムが、原発と機能的等価たり得たのに、世界最大の潜在可能性がある地熱の推進政策はとっくに中止されて以降は再生エネルギーにも数えられず、バイオエネルギーを使って熱を熱のまま利用するコジェネの地域システムも北欧やドイツのようには普及していない。地域独占電力利権に不都合だからです。

 要はこう。現時点の日本には、再生可能エネルギーの不安定さを補いつつC02を出さないベース電源として、原子力と機能的に等価なオプションがないのは確かだが、それは「あそこに山があり、ここに川がある」が如き自然の事実でなく、盲目的に原子力政策のアクセルを踏んだ人為の結果です。

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