サイゾーpremium  > 連載  > CYZO×PLANETS 月刊カルチャー時評  > 【連載】『月刊カルチャー時評』/『バクマン。』

批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

1207_bakuman_naka.jpg
「週刊少年ジャンプ」2012年21・22合併号より。人気連載は長期化する傾向の中、あっけないほどの大団円を迎えた『バクマン。』を惜しむ声もネットではあがっていた。

宇野常寛[批評家]×伊藤剛[マンガ評論家]

 08年の連載開始以来、「こんなにはっきり内幕を描いても大丈夫なの!?」と話題を集め、いわゆる“マンガ家マンガ”として人気を博してきた『バクマン。』がついに完結した。傑作『DEATH NOTE』の後で、作者コンビは何を目指し、どこでミスを犯したのか──?

宇野 今回、完結に際してまとめ読みしたのですが、予想以上に面白かったです。これは不思議なマンガで、主人公たちの行動そのものは、ものすごく地味なはずなんですよ。基本的に部屋でひたすらマンガを描いて、編集者と打ち合わせして、アンケートの結果に一喜一憂する。あとは関係者同士で恋愛くらいしかすることがない。そのはずなのに、読んでいてほとんどダレずに、緊張感が維持されている。エピソードづくりの巧みさと、画力に支えられた表現力の高さの賜物ですよね。

 そして何より、「週刊少年ジャンプ」編集部を自ら素材にしたフェイク・ドキュメンタリー的なコンセプトが最後まで効いている。このフェイク・ドキュメンタリー的な仕掛けだけでも十二分に面白い。日本最大の物語系メディアである「ジャンプ」だからこそ、その内幕を描くだけで商品になるわけですが、よくこんな芸当ができたな、と感心するばかりです。ただ、理由はこれから挙げていきますが、完成度の高さにうならされるその一方で、「ジャンプ」はこの先大丈夫なのか、と考えてしまったことも事実です。

伊藤 僕は単行本の1巻が発売された時にすぐ買って読んだんだけど「これは釣りだ!」と思って、それ以降は一切触れない、読まない態度をこれまで貫いてきました。

 なぜかというと、マンガ業界人、あるいはいわゆる“マンガ読み”は、作中で描かれているさまざまなエピソードについて、あれこれ言いたくなるじゃないですか。業界の内幕を露悪的と言っていいくらいあけすけにして、手の内を全部見せるような枠組みなので、「これは何が元ネタか」とか言いたくなる。それから批判したくなりますよね。宇野さんの言う「大丈夫か」というのは、「『ジャンプ』の内幕自体を商品にしたら、この先はない」という意味だと思うんですが、そういう批判は確かにあるでしょう。

 それと、このマンガの主人公たちは誰のマンガにも憧れてないんですよね。“憧れの鳥山明先生”とか“井上雄彦先生”とか一切ない。そこが『まんが道』【1】と全然違う。それで「あの2人は理想を語らない」という批判も当然出ると思う。あとは、まったくではないにしても作中で描かれているマンガの内容が置き去りになっているので、「順位だけが指標になっている」と批判することもできる。それから、今回の完結は一応ハッピーエンドで大団円っていうことなんだけど、ハッピーエンドに見えない。夢を叶えて結婚して、じゃあこれから先は余生なの? というか。こういった批判はいろいろ考えられるんだけど、でもそんな批判は全部「想定内」ですよ、って感じがするじゃない。それに、読めば読んだだけ面白く読めたわけだから、作品の面白さを否定してはいけないでしょう。でもこれ、本当にこれでいいの? と思わざるを得ない。

宇野 この、半分だけ楽屋を見せる、見せているかのように振る舞うことで「これは虚構ではなく現実だ」という文脈を生んでリアリティを与える。これは80年代から90年代に、テレビや雑誌でよく用いられていた手法ですね。特に、普通に読めばむしろ白けてしまうようなベタな感動物語に、フェイク・ドキュメンタリー的な仕掛けを経由することで消費者を没入させるという構造は、90年代のテレビバラエティでよく採用されていた。これは作り手が繊細に受け手の感情を操作することが必要なので、テレビの影響力が絶大で、テレビが世間の空気を作っていたからこそ可能な手法だったともいえる。

 これがインターネットだとそうはいかない。例えば「これは本当にあった話だ」という前置きが構造的に機能するとうっかりベタな物語に泣いてしまう、という点においては『電車男』が挙げられると思うんですが、このケースでは匿名掲示板という舞台が機能した。わざわざメディアが「半分だけ楽屋を見せる」という繊細なコントロールを行った上で提示されるものより、匿名のユーザーが勝手に掲示板に投稿したもののほうが圧倒的にリアリティがある。

 こうして考えてみると、『バクマン。』のフェイク・ドキュメンタリー性はインターネット以前の思想で作られている。そしてそれが可能なのは、右肩下がりのテレビと違って「ジャンプ」はあくまで相対的にだけど、まだマスメディアとして君臨できているからだと思うんですよね【2】

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2018年12月号

禁断の映画と動画

禁断の映画と動画
    • 【ライブ配信】儲けのカラクリ
    • 【本田翼】もハマるゲーム実況
    • 決定!2018年【邦画ラジー賞】
    • 【アジア系】が逆襲するハリウッド
    • 注目のハリウッド【アジア系俳優】
    • 【片山萌美】ショーガールグラビア
    • 俳優に責任を問う【報道の愚行】
    • 【自主制作映画】の現場からの悲鳴
    • 【小川紗良×堀田真由】映画大討論会
    • Netflix産【ヒップホップ映像】の社会性
    • 傑作【ヒップホップ】動画10選
    • 【ネトフリ×ヒップホップ】作品レビュー
    • 映画・ドラマ【サントラ】の裏事情
    • ネトフリの【麻薬ドラマ】のリアル度
    • 奇想天外【アフリカ】の忍者映画
    • 世界は【忍者】をどう描いたか?
    • 【深夜アニメの劇場版】が儲かる不思議
    • 劇場版アニメに見る【ポストジブリ】争い
    • 【ジャニーズ】がキラキラ映画で失敗する理由
    • 意外と面白い【キラキラ映画】レビュー
    • 【中東情勢の今】がわかる映画
    • 【芸能プロ】に映画監督が所属する理由

"異能作家"たちが語る「文学、新宿、朗読」論

    • 【石丸元章×海猫沢めろん×MC漢×菊地成孔】対談

インタビュー

連載

    • 【橋本梨菜】ギャル男をマネタイズしたいんです。
    • 【RaMu】YouTubeで人気の美女が泡まみれ
    • 【ダレノガレ】は突然に
    • 日本の【AI市場】と日本企業のAI導入の真実
    • 【オスカー社員】が大量退社で瓦解!?
    • 祭事的【渋谷ハロウィン】分析
    • 【出前アプリ】を支えるライダーたちの過酷な日常
    • 【フレディー・マーキュリー】の一生
    • 町山智浩/『ボーイ・イレイスド』ゲイの息子と神のどちらを選ぶのか?
    • ジャーナリスト殺害事件で変わる【サウジ】の覇権
    • 小原真史の「写真時評」
    • 五所純子の「ドラッグ・フェミニズム」
    • 「念力事報」/それがジュリー
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ研究所」
    • 【カーネーション】フェミ論点全部乗せの名作朝ドラ
    • 「俺たちの人生は死か刑務所だ」ギャングの豪快な人生
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • 【山陰】でビール造りに励む男
    • 【薔薇族】刊行で去っていく友と、死を恐れぬ編集者
    • 幽霊、紅衛兵たちのアニメ映画興行。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』