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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第56回

教師も法も役に立たない“イジメ”という現実

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雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。

『Bully』(ブリー)

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アメリカで社会問題化する“イジメ”の実態をとらえたドキュメンタリー。学校でイジメを受けている子どもたちの生活を撮影するとともに、イジメを苦にした自殺によって我が子を失った両親へのインタビューなどを収録。アメリカの一般的な学校で起こるイジメの現状を、詳細に映し出している。

監督/リー・ハーシュ 出演/アレックス・リビー、ジャメイヤ・ジャクソン、ケルビー・ジョンソンほか 日本での公開は未定


 フィッシュ・フェイス。

 オハイオ州に住む12歳の少年アレックスは、学校でそう呼ばれている。顔が魚に似ているからだ。彼は未熟児として生まれ、軽度の自閉症でもある。中学への通学バスは彼にとって地獄だった。イジメっ子たちがアレックスを殴り、首を絞め、頭の上に座るからだ。

 映画『Bully』は、アレックスほか4件のイジメの実態を記録したドキュメンタリー。Bullyとはイジメっ子のこと。イジメは古今東西どこにでもあるが、アメリカの学校では近年、イジメが悪化し、自殺者も多く、社会問題化している。それには構造的な理由がある。

 まず中学に入るとクラスがなくなること。生徒の生活を監視する担任もいなくなる。生徒たちはクラスの代わりにクリークと呼ばれるグループを形成する。スポーツマンはスポーツマン、優等生は優等生、と同類だけで集まって、ほかのグループと話はしない。オタク、不良などの「負け犬」グループにでも入れればまだいいほうで、どこにも居場所のない子どもは辛いことになる。

 日本では高校になるとイジメが急激に減少する。学力や親の経済力によって、高校が分かれるからだ。しかし、アメリカでは優等生も乱暴者も一緒の高校に進学するので、イジメは減らない。

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