サイゾーpremium  > 連載  > 神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」  > 【連載】「マル激 TALK ON DEMAND」第64回
連載
神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第64回

東大話法が生んだ聖域とタブー

+お気に入りに追加

ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

201205_marugeki.jpg
安冨歩氏の著書『原発危機と「東大話法」』(明石書店)。

今月のゲスト
安冨 歩[経済学者]

 福島原発事故以降、これについて発言する多くの専門家や政治家の言い回しに違和感をもった人は少なくないはずだ。東京大学教授・安冨歩氏の著書『原発危機と「東大話法」』では、こうした違和感を丁寧に解説しているが、言語体系がはらむ問題は東大話法を用い、己の既得権を保持する動きだという──。

神保 今日のテーマは「東大話法」。聞き慣れない方もいるかもしれませんが、巷では今、この言葉が静かなブームになりつつあるそうです。

宮台 マル激では、僕らのコミュニケーションが、〈引き受けて考える作法〉ならざる〈任せてブー垂れる作法〉に淫し、〈合理を尊重する作法〉ならざる〈空気に縛られる作法〉に淫する事実を、長く問題視してきました。これは丸山眞男氏をはじめ近代啓蒙派の人々が、繰り返し主張してきたことです。丸山の批判者であり先日逝去した吉本隆明氏もスターリニズム批判の観点から同様に主張してきました。なのに戦後65年以上たって何も変わらない。なぜなのか。「東大話法」が重要なヒントを提供してくれます。

 先日マル激のゲストに迎えた元財務官僚の高橋洋一氏は、「財務省の組織目標は権益維持拡大に向けた増税であり、財政再建を成功させるつもりはない」と言いますが、一方で、氏は「個別の役人は、合理的で、人柄がいい人が多い」と言う。個人の資質と、組織人としての営みの、この落差はなんなのか。

 戦中も、陸軍参謀本部や海軍軍令部で「ロジスティックス」の概念を知らない人はいなかったはずですが、有名なインパール作戦では武器弾薬はおろか水や食料の補給もないので失敗が必定なのに決行され、兵士の大半が餓死しました。レイテ戦も死者の9割以上は餓死と病死です。開戦直前も若手将校と若手官僚からなる総力戦研究所が「日米開戦すれば日本の勝利確率0%」とシミュレーションしたのに「短期決戦ならば勝機あり」との理屈で開戦しました。なのに極東国際軍事裁判では「A級戦犯」全員が、「空気に抗えなかった」「今更やめられないと思った」と証言をした。実に奇妙です。組織を合理的に制御できなくする作法が、東大話法だといえるでしょう。

神保 ゲストは、東大話法という概念を考案し『原発危機と「東大話法」』(明石書店)という本を書かれた東京大学東洋文化研究所教授の安冨歩さんです。この本はツイッター上でもかなり話題になっていますが、どんな反応が多いですか?

安冨 私が最も尊敬している飯島博(アサザ基金代表理事)さんは、「おかげ様で、とても体に良い食べ物を頂いたような気分です。今まで、東大をはじめとした研究者にやられてきたことに対するモヤモヤがこれで晴れました」と言ってくださいました。これが最上級の褒め言葉だったと思います。一方で、悪い評価としては「こんなものは存在しない。ただの揚げ足取りで、まったく無意味だ」というものもありました。総じて、東大の先生から好評だったのが意外でした。

神保 「東大話法」の細かな内容については後ほど見ていきますが、まず私自身がこの本を読んで最初に感じたことは、結構自分の周りに東大話法の使い手が多いなあということと、知らず知らずのうちに自分もそれを使ってしまっているかもしれないということでした。

安富 知識人がどうしてもぶつかる問題であって、東大話法のようなものから完全に自由であることは、難しいと思います。重要なのは、それに嫌悪感をもつかどうかです。

神保 安冨さんが原発問題と関連づけて東大話法のことを本に書こうと思った理由から聞かせてください。

安富 私は京都大学出身で、もともと東大には縁がなかったんです。京大にはとても変わった学生や先生が多く、「頭が良いというのも、なかなか苦しいことなんだな」と感じさせられます。京大でこれだけ変わり者がいるのだから、東大はそれ以上なのだろう、と考えていたのですが、実際に中に入ってみると、見るからにおかしな人がまったくいない。それが最初の疑問でした。

 しかし、東大で信頼していた人がハラスメント問題で告発されるなど、思いもかけないことが起こる中で、「東大の人は、内面はゆがんでいても、そのゆがみを表に出さない技術に長けているのだ」ということがわかったのです。都合の悪い部分を隠蔽し、自分の内面的な苦しみやゆがみが見えないようにし、邪悪な目的などを正当化するための言葉遣いに優れている。

 そういうことをぼんやりと考えていた時に、原発問題に対して東大関係の御用学者が発言する場面を見て、「東大話法」という言葉が思い浮かびました。日常的な状況の中では、うまく隠蔽されていて見えないけれど、爆発する原子炉を言語で隠蔽するのは不可能なので、結果として、言葉でごまかしていることが露呈したということでしょう。

宮台 京都で育った僕には、関西圏と首都圏の違いがわかります。大阪のような大都市といえども田舎みたいな感覚なのです。典型的には、居住地がわかれば、すべての属性がわかるとされます。それで「ネタ割れとるで、なに偉ぶっとんねん」という具合になるので、最初から「おれ、こんなんやから」とボケます。足元を見せてからコミュニケーションするので、表立って変なことをやっても許されます。それが、京大に見るからにおかしな人が多い理由だと思います。他方、東京は全国から田舎者が集まった上で、足元を見られないようにつっぱる場所です。腹を割らないでうわべは上品に振る舞う分、抑鬱的で暗いコミュニケーションだと感じます。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2018年12月号

"異能作家"たちが語る「文学、新宿、朗読」論