サイゾーpremium  > 特集  > 地下墓地、赤線地帯、精神病院.........

──裏社会を視覚化し得る写真というメディアは、ときにヤクザという固定化されたイメージを覆したり、忘却された時空間を蘇生させたり、日常に潜む闇を照射したりする。ここでは、そんなあなたの知らないアンダーワールドへ誘う8冊の写真集を紹介しよう。

 19世紀半ばに発明された写真は、さまざまなテクノロジーと連携して地球上のあらゆる場所を征服し、一般の眼に見えるものにしていった。今日では当たり前にも見えるカメラと照明という組み合わせも、写真家たちの努力の末にようやく可能になったものだった。

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【1】『Le Paris Southerrain』

 1861年、肖像写真家としてその名をとどろかせていたナダールは、パリの地下墓地(カタコンベ)と地下水道の人工光撮影に成功し、その後写真集『Le Paris Southerrain』【1】としてまとめられている。異端と見なされ、弾圧された中世のキリスト教信者たちはパリの地下に共同墓地や教会で信仰を守っており、迷路のように張り巡らされた通路では無数のドクロが訪問者を迎えていた。自身を地下への案内人に見立てたナダールはこう言う。「マダムの御足が触れたばかりの名もなき骨の断片が、マダムのご先祖さまのものであったかもしれません。そして今は、かくなり果てた人も、かつては愛し愛されたことがあったのです……」。当時、地下での撮影は18分の露光時間を必要としたというが、ナダールはマネキン人形を置いての撮影や、長時間座ってのセルフポートレイトにもチャレンジしている。そのほかにも気球からの世界初の空撮にも成功しており、さぞかし好奇心とバイタリティにあふれた人物だったのだろう。この頃、地下も空も写真家未踏の地だったのだ。


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