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第1特集
次の舞台は保育園の闇!?

作家・新堂冬樹が自己分析する「闇社会小説に人々が熱狂する理由」

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 『黒い太陽』『忘れ雪』など、数々のヒット作を生み出してきた作家・新堂冬樹。自身が身を置いていた闇金融の世界を描いたノワール小説でデビューした彼は、ドス黒い欲望が渦巻く闇社会に生きる人々をリアルに描き出し、読者にエンターテインメントを提供し続けてきた。描かれる世界は、どこまで真実に近いのか? 書きすぎて、闇社会の住人たちに怒られたりすることは? 一見コワモテすぎる異色の作家に、少々腰が引け気味になりつつインタビューを敢行!

──新堂さんは、1998年に闇金融業を舞台にした『血塗られた神話』(講談社)でメフィスト賞を受賞されて、ノワール作家としてデビューされました。現在は恋愛小説なども手広く書かれていますが、最初に闇社会について書いたきっかけはなんだったのでしょうか?

新堂 もともと自分自身が10代の頃、闇金融で働いたり、芸能プロの付き人やいろんな仕事をしてたんですよ。その体験がひとつのきっかけです。

──なぜそういうアンダーグラウンドな世界へ入ることに?

新堂 15歳で東京に出てきたんですけど、10代の頃は正直、ものすごいヤンチャしてたんです(笑)。そしたら先輩が「フラフラしてないで仕事しろ、紹介してやる」って口利きしてくれて、それで闇金融の世界に足を踏み入れたのが最初ですね。

──そんなハードな世界に身を置きながら、小説を書こうと思ったのはなぜなんでしょうか?

新堂 もともと本を読むのが好きで、多い時は1日3〜4冊読んでたんですよ。当時よく読んだのは富島健夫さん。あとはマフィアやヤクザものから、コバルト文庫とかティーン向けの恋愛小説まで、なんでも読みました。デスクワークの合間とか待ち時間とかね、けっこう暇な時間があったんですよ(笑)。で、他人の書いた小説を読んでると「俺なら、こう書くのに」とか思うワケです。だけど他人の作品にごちゃごちゃ言っても無駄だから、じゃあ自分で書こうと思って、書いたのがデビュー作の『血塗られた神話』だったんです。

──もともと昔から書きためていたわけではなく、初めて書いた小説がいきなり賞を取った、と。

新堂 自分が楽しめる小説は自分で書くしかない、という安易な発想で書いただけなんです(笑)。でも、たくさん本を読んでたし、自分にもできるのでは、という根拠のない自信はなんとなくありましたね。

徹底したリアリズム受刑者にも愛される世界観

──新堂さんはこれまで『底なし沼』(新潮社)、『カリスマ』(徳間書店)、『銀行籠城』(幻冬舎)など、闇金融、新興宗教、銀行強盗など、さまざまな闇社会を舞台に小説を書かれてますよね。まさかとは思いますが、すべて実体験では……?

新堂 いやいや(笑)。もちろん、『無間地獄』(幻冬舎)や『底なし沼』など闇金融業の話は、自分の体験も含まれています。ほかの作品に関しては、昔の知り合いや先輩の話を元にしたものはありますね。そういう意味では、闇社会にかかわる本物の人たちからネタを集めたので、何も知らない人が書くより、リアリティがあるかもしれません。

──あらためて取材することは、ほとんどない?

新堂 基本的に、あまり取材はしません。ただ、私は経営コンサルタントをしていたことがあって。普通の会社から、医療関係、怪しげな会社まで、さまざまな業種の会社の社長さんと仕事をする機会がたくさんあったんですよ。そういう意味では、仕事自体が自然と取材になりましたね。コンサルタントという立場上、普通なら絶対教えてくれないような裏話もかなり聞けたし。

──『黒い太陽』(祥伝社)で描かれたような、風俗業界についてはどうでしょうか?

新堂 『黒い太陽』の時はキャバクラに取材に行きました。お店に「客として行くから、取材させてほしい」と言って、毎日のように編集者を十数人引き連れて、オープンからラスト、9時から3時まで。私はお酒が強いので、同行した編集者はつらかったと思いますよ、ずっとストレートでイッキさせてましたし。もちろん、費用は全額私持ちですけど(笑)。でも毎日通ったおかげで、お店のことをいろいろと知れて面白かったですね。飲んで騒ぐうちに、あらたまって取材しても聞けないような女の子たちの本音もたくさん聞けたし。

──やっぱり体を張った取材もされてるんですね……。そういった取材の上に成り立つ新堂さんの小説は、闇社会のかなり細かい部分まで書かれているので、「こんなことまで書きやがって!」と関係者から脅迫が来そうなものですが。

新堂 そういうことはないですね。むしろ逆に喜ばれてるんじゃないかな。私は闇社会について書くときも、偏った書き方をしないので。悪役は悪役でも、たとえば復讐のために道を外れたとか。絶対的な悪っていないんです。それよりも、私は口だけでまっとうなことを言う人間が嫌いなので、どちらかといえば偽善者を忌み嫌う視点で書いています。だから意外に、刑務所からファンレターが来たりしますね(笑)。

エンタメとしての闇社会ネタは意外なところに!?

──時代が変わっても、闇社会を描いた小説が人気を集め続けるのはなぜなんでしょうか。書き手の側として、ニーズがどこにあると考えていらっしゃいますか?

新堂 やはり、怖いもの見たさですよね。世の中の大多数は表社会の人間なので、自分が体験できないことを覗き見したいというのが心の中にある。だから、闇社会だけじゃなくても「○○業界の実態を探る」などの暴露本って売れるじゃないですか。自分では足を踏み入れることのできない、でも気になる世界を、ワイドショーや週刊誌で見たり小説で読んで楽しむんだと思います。

──では、新堂さんが闇社会を描き続ける理由は?

新堂 私の場合、まずは自分が楽しみたい。そしてやはり、人がやらないことをやりたい。もともと性格的に、人を驚かせたり笑わせたりするのが好きなんですよ。だから「これを書けば、世間を驚かせられるだろうな」というのがすべての作品に通じる軸です。私の小説には、ドロドロの闇社会を描いた"黒"作品と、純愛などをテーマにした"白"作品の両方があります【註:ファンの間では、闇社会などを描く作品が「黒新堂」、純愛小説などが「白新堂」と呼ばれている】。普通、作家って有名になると、なんとなく収まりがいいような作品ばかりを書く人が多いと思うんですよ。でも、私は『忘れ雪』(角川書店)や『引き出しの中のラブレター』(河出書房新社)など、心洗われるような恋愛モノで、しかも一流女優が主演する映画の原作になるような小説を書いたとしても、一方で『殺し合う家族』(徳間書店)とか、ものすごい下品で残酷な小説を普通に出します。それはやはり「人と違うことがやりたい」と考えているから。今までにそういう作家はいなかったしね。これだけファン層が分かれている作家も、珍しいんじゃないかな。この前初めてサイン会をしたんだけど、"白"作品のファンの子が「残酷な小説も書いてるんですか?」って驚いてたよ(笑)。

──それでは、今後また読者を驚かせるようなものにできそうな、描いてみたい闇社会はどこでしょう?

新堂 一見、表の仕事のようで実はすごい裏がある、といった世界があれば書いてみたいです。たとえば……保育園とか(笑)。「そんなのありえない!」と思うような世界を、リアリティを持たせた上で書きたい。たとえば、美容整形の世界なんて、初めからなんとなく「裏がありそうだ」って皆感じてると思うけど、そういうのではなくて、もっと一見マジメな世界。大体私は、「純粋そうな容姿をしている」かどうかとか……つまり、外見だけでは人を信用していないんですよ。なのに、男は単純な輩が多いから、「純粋っぽい女性」を見るとすぐ「きっといい人だ」と思う。でも、純朴そうな保母さんに見えたって、本当に男に免疫がないのか、それとも男がそういうのを好むと知った上で地味なフリをするしたたかな人間なのか、わかんないですよね。だってそういう子に、六本木か渋谷にマンションを借りて500万円渡して「好きに暮らしていいよ」と言ったら、どうなると思う?それまで知らなかっただけで、実際にそういう環境に触れたら、意外とすごいスピードで堕ちると思いますよ。まあ、もし半年後にまったく染まってなかったら信じてもいいけど。それに比べると、夜の商売をしてる子のほうがよっぽど純粋な場合だってある。だから人は見かけで判断できない。仕事だけで信用しちゃダメなんです。

──なるほど。では、出版界はどうですか?たとえば文壇は出版界の闇というか、タブーな領域といわれていますが……。

新堂 苦手ですね、文壇(笑)。俺は15歳で東京に出てきて一匹狼で成り上がってきたので、おだてられていい気持ちになるより、数字で結果を残したいタイプなんです。だから、今となっては、デビューしたのもメフィスト賞でよかったと思います。ほかの賞とかだったら、新人時代は好き勝手に書けなかったと思うので、新堂冬樹のイカレた世界観とか今頃なくなってたかも(笑)。狭い世界の中で満足するんじゃなくて、誰も書いたことのない刺激的な世界を描いて、世の中をあっと言わせたいですね。

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新堂冬樹(しんどう・ふゆき)
大阪府生まれ。作家、芸能プロダクション社長。金融会社勤務を経験後、経営コンサルタントに。98年に『血塗られた神話』でメフィスト賞を受賞し、作家デビュー。07年、芸能プロダクション「新堂プロ」を設立。最近では、昆虫と毒蟲のリアルファイトドキュメンタリー映画『虫皇帝』を監督するなど、手がけるものは広範囲に渡る。

◉ヤミ金、キャバクラ、家族……舞台はさまざま
「黒新堂」3作をピックアップ!

『血塗られた神話』 講談社/580円

債務者への過酷な"キリトリ"で「悪魔」と呼ばれた街金融の経営者・野田秋人のもとに、惨殺された新規客の肉片と写真が届く。なぜ客は殺されたのか? 独自に調べ始めた彼の脳裏に、5年前に自殺に追い込んだ客の記憶が甦る......。第7回メフィスト賞を受賞し、作家・新堂冬樹を世に生んだ1作。


『黒い太陽』 祥伝社/2205円

父親の入院費用を稼ぐため、キャバクラで黒服をする立花篤。夜の世界を嫌悪していた彼だったが、「風俗王」藤堂に見込まれ、若き辣腕ホール長・長瀬と出会う。刺激を受けた彼は、この世界の魅力に憑かれ、どんどんと深淵にハマっていくが……。風俗業界の闇を描き、永井大主演で06年にはドラマ化もされた人気作。


『殺し合う家族』 徳間書店/1785円

詐欺商法をしていた男と、その男に惹かれた女。やがて男の誘導で、女の家族が呼び出され、家族たちは殺し合いを始める――。02年に発覚した北九州連続監禁殺人事件をモチーフにした犯罪小説。拷問の様子や遺体の解体シーンなど、描写の残酷さ・グロテスクさも話題を呼んだ。


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