>   >   > 世界で最も有名だった伝説のセックス・クラ...
連載
町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第23回

世界で最も有名だった伝説のセックス・クラブ

+お気に入りに追加

【今月の映画】

0909_americanswing.jpg
『SWAP×SWAP 伝説のセックス・クラブ』
(原題:American Swing)
1977年から85年まで営業され、ニューヨークの中で「性の無法地帯」として世界で最も有名だった、セックス・クラブ「プレイトーズ・リトリート」と、その経営者ラリー・レビンソンに迫ったドキュメンタリー。監督/マシュー・カウフマン、ジョン・ハート 配給/クロックワークス 10月17日からシネマート新宿にて公開

 ニューヨークはセントラル・パークの西側、歴史科学博物館の近くに、ジ・アンソニアという古くて美しいビルがある。金持ちの高級アパートとしてアメリカ映画によく登場するビルだ。このビルの地下にかつて「プレイトーズ・リトリート」という店があった。店名は「プラトンの隠れ家」だが、プラトニック・ラブとは正反対に、フリー・セックスの乱交が行われていた場所である。

 在りし日のプレイトーズ・リトリートを追うドキュメンタリー映画『SWAP×SWAP 伝説のセックス・クラブ』が日本でも秋に公開される。

 プレイトーズを作った男はラリー・レヴェンソン。ラリーは、家業のコーシャー(ユダヤ教の伝統的儀式に則って処理された肉)卸売りに従事する、3人の子を持つ父親だったが、当時流行していたスウィング・ムーブメントの虜になってしまった。

 1960年代、ヒッピーの若者たちが始めたフリー・セックス運動は、郊外の中産階級の家庭にも浸透した。サラリーマンのパパと、専業主婦のママたちが、週末の夜に子どもをベビーシッターに預けて、パーティをする。夫婦交換パーティだ。日本ではスワップ(交換)と呼ぶが、アメリカではスウィングと呼ぶ。スウィングには「自由奔放に行動する」という意味がある。セックスと愛を分けて考える「オープン・マリッジ」が新しい夫婦のかたちとして提唱された。

 ラリーは妻に内緒でスウィング・パーティに入り浸ったのがバレて離婚されたが、逆にこれを堂々とビジネスにしようと思いついた。それがプレイトーズ・リトリートだ。

 入場料は1人25ドル。これに6週間5ドルの会員費を払う。中には、ディスコやジャグジー、食べ放題のバッフェがそろっている。客はみんな全裸になって遊びながら相手を探す。セックスの現場を他人に見られるのが恥ずかしい人には個室もあるが、呼び物はなんといってもマットレス・ルームだ。部屋の床全部が巨大なベッドになっていて、そこでは何十人もの男女が同時にセックスをしている。それは想像を絶する音と匂いだったという。

 また、当時まだ20代でカメラマンを目指していたという女性はプールで泳いだ経験をこう回想する。

「裸で泳ぐ私を見ながら、プールの両端に並んだ男性がマスターベーションして、いっせいに射精したんです。ザーメンが私の上にアーチを描いて……。写真に撮っておけばよかったわ!」

 こんな場所がまったく合法的に看板を掲げて運営されていたのだ。おまけにテレビCMまで打っていた!とにかく当時はセックス革命の絶頂期だったからだ。

 72年にピル(経口避妊薬)が全面的に解禁され、セックスと妊娠が分離された。また同じ年には性器の結合をズバリ見せてしまうハードコア・ポルノも解禁になり、タブーなきセックス情報を満載した雑誌「スクリュー」が50万部も売り上げた。

『SWAP×SWAP』には当時のプレイトーズ店内の映像がふんだんに使われている。セックス専門のケーブルテレビ番組『ミッドナイト・ブルー』のために撮影されたビデオ・テープからの編集だ。さらに監督のマシュー・カウフマンとジョン・ハートは新聞広告でプレイトーズの常連だった人を募集し、彼らに当時の模様をインタビューした。おばあちゃんやおじいちゃんが30年前のフリーセックスを懐かしそうに語る。でも、実際の現場はいいことばかりじゃなかったらしい。

「食べ物が用意されてたけど、スペルマが飛び交ってる中で食べる気にはならなかった」

「マットレスは大量の体液を吸って不潔だった。かゆいと思ったら、シラミだらけだったわ」

 主催者のラリーは恋人のメアリーと2人で積極的にマスコミに登場し、入籍やセックスに縛られない新時代のカップルを演じた。

 しかし、この楽園は内部から崩壊し始めた。まず、ラリーの浮気に我慢できなくなったメアリーが別の男を愛してしまい、その男がラリーを袋叩きにした。おまけにラリーは脱税で逮捕されて刑務所入り。釈放されてプレイトーズに帰ってきた直後にエイズ・パニックが巻き起こった。シラミどころじゃなかった。ニューヨーク市は公衆衛生上の理由でプレイトーズを閉鎖した。一文無しになったラリーはタクシー運転手として働きながら、独り寂しく死んだ。

 この映画は期待するほどエロチックではない。なぜなら、美しい人はほとんど登場しないからだ。プレイトーズで楽しんだのは、女優やモデルではない普通の、しかも中年の人々ばかりだった。美男美女でもなければ、お金持ちでも有名人でも権力者でもない人々が、お金の交換なしに思う存分セックスできたのは、人類の歴史上でも、この時代だけかもしれない。

まちやま・ともひろ
サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)など著書多数。TOKYO MXテレビ(日曜日23時〜)にて、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』が放送中。tomomachi@hotmail.com


Recommended by logly
サイゾープレミア

2017年5月号

学校では習わない"日本のキリスト教"史

学校では習わない
    • スコセッシの【沈黙】は嘘だらけ!?
    • 宣教師と【キリシタン】の実態

姫乃たまグラビアと「アイドル限界説」

姫乃たまグラビアと「アイドル限界説」
    • 連続解散に見る【アイドル】の限界
    • 【里咲りさ】が語るグループの終わり方
    • 【姫乃たま】が語るアイドル3年周期説