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連載
町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第22回

病気・肥満・貧困を生む食ビジネスの"負の連鎖"

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【今月の映画】

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『フード・インク』
「病気・肥満・貧困」の一因は食品業界にあり。アメリカ人が食べているモノの多くは、大企業と政府機関によるコントロール下で製造される"工業製品"であるという、食ビジネスのおぞましい実態のヴェールを剥ぐ。これを観てしまったら、もう何も口にできなくなってしまうかもしれない、食欲退行ドキュメンタリー。監督/ロバート・ケナー、アメリカでは6月公開、日本公開の予定あり

 カウボーイはアメリカのアイコンだ。地平線の彼方まで広がる大平原でカウボーイに見守られながら草を食む牛たち。そんな風景が、ステーキやBBQやハンバーガーにかぶりつくアメリカ人の頭には浮かんでいるだろう。その幻想を木っ端微塵に打ち壊すのが『フード・インク』というドキュメンタリー映画だ。フード・インク(食品株式会社)というタイトルは、農業がすでに工業になってしまった現実を表している。

 この50年間で、肉や野菜は大量に生産され大量に消費される工業製品になった。マクドナルドだけで世界に3万店舗、毎日4000万人以上の客に一個100円のハンバーガーを売っている。ファストフード産業の消費量と値段を可能にするには、牧場でのんびり牛を育てているんじゃ追いつかない。

『フード・インク』ではコロラド州の「牛工場」の実態を暴く。何万匹もの肉牛が狭い柵の中に押し込められている。足元には緑の草などない。代わりに大量のコーンが与えられる。品種改良によって澱粉質を増やした飼料用なので、牛は草の倍のスピードで育つ。

 しかもコーンは安い。2008年に高騰したが、その前の生産者価格は25キロでたった300円だった。ところがコーン業者は増える一方。というのも連邦政府がコーン農家に莫大な助成金を払ってコーン生産を奨励しているからだ。しかも遺伝子組み換えによって虫もつかず、コーン生産は極端に簡単になった。現在、アメリカのコーン作付面積は日本の総面積を超えて増え続けている。

 こうして従来の何十倍もの規模で育てられた牛や豚を解体する屠畜場の数は逆に、かつて数百もあったのが現在はわずか13しか残っていない。1日に何百頭もの牛を処理する巨大な工場だけになったのだ。そこで働くのは、かつてのような熟練した職人たちではない。メキシコからの不法労働者ばかりだ。彼らは屠畜に関してズブの素人で、流れ作業のなかで一つの単純作業しかできない。肉から腸を切り離す。肉に付着した腸の内容物を洗浄する。そんな作業を朝から晩まで続けたら集中度が落ちる。そのため、アメリカでは年に何回も肉を媒介にしたコレラ感染事件が起こる。

『フード・インク』では隠しカメラを使ってアメリカの屠畜場内の撮影に成功した。驚くのはベルトコンベアのスピード。この速さでは何が起きても不思議じゃない。

 屠畜場で働く不法移民は主にメキシコの寒村から来た。彼らはメキシコの主食であるコーンを作っていた農民だ。しかしアメリカ産コーンの量と安さに押されてメキシコのコーン農家は苦境にある。

 負のサイクルをもうひとつ。ブッシュ政権はコーンから作るバイオ・エタノールを高騰する石油の代替物にしようと提唱した。それがコーン価格の暴騰を引き起こし、世界的な食料と飼料不足へとつながった。ところが、今は誰もエタノールの話はしない。なぜなら、大量の石油肥料を消費するコーンはまるで石油の節約にならないとわかったからだ!

 しかも日本よりも広いコーン畑にまかれた何十万トンもの石油肥料はやはり川を通ってメキシコ湾へと流れ込む。その栄養でプランクトンが異常繁殖し、海中の酸素を消費して、魚やエビを殺している。

『フード・インク』は、この異常事態の原因を、農業の寡占化、大企業による独占だと指弾する。現在、アメリカの牛や豚、鶏肉の生産はそれぞれ、わずか4つほどの巨大企業に独占されており、それぞれが行政に対する強大な影響力、圧力を持っている。食料と医薬品の安全を管理する政府組織FDA(食品医薬品局)の役員は食品会社や薬品会社の重役が兼任しており、管理能力はどん底に低下している。72年にFDAは5万件を超える査察調査を行ったが、06年にはその2割以下の9000件しか行っていない。

 それにしても100円のハンバーガーは安すぎる。この安さを実現するため、ファストフードと畜産周辺の人件費は限界まで安く抑えられる。給料を安くされた人々は自宅で料理するよりも安い100円バーガーばかり食べる。ここにも負のサイクルが作られる。

 アメリカに比べると日本はまだマシだ。屠畜はまだ優秀な職人さんが丁寧に行っているし、アメリカ産牛肉の輸入規制も厳しい。でも、コーン暴騰の時は、飼料が買えずに多くの養鶏所が倒産した。メキシコ湾のエビにも頼っている。すべてはつながっている。100円バーガーしか食べられない貧困層も形成されつつあるし。

 アメリカでは同時期に『エンド・オブ・ザ・ライン』というドキュメンタリー映画も公開された。そちらは過剰漁獲によって魚の絶滅危機を描いている。世界で一番多く魚(特にマグロ)を消費しているのは日本。その大半を取引しているのは三菱商事。アメリカのことは笑えないね。
  
まちやま・ともひろ
サンフランシスコ郊外在住。『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社)など著書多数。TOKYO MXテレビ(日曜日23時〜)にて、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』が放送中。tomomachi@hotmail.com


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