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連載
各界一の型破りな元お相撲さん 高橋光弥(元栃桜)のどっこい人生 第78回

なぜ力士の女房は年上が多いのか?

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 今回は、還暦を過ぎた男が柄でもないと言われそうだが、力士の色恋沙汰について書いてみたい。なんとなく、そんな気分なんだから、いいじゃないか。

 力士にとって、恋をすることは、相撲人生を左右する大きな出来事といっていい。キザな言い方だが、相撲に恋した力士は、相撲界で成功する可能性が残されているが、女性に本気で恋してしまった力士には未来がない。

 女性に恋をするということは、病気やけがと同じくらい、力士をダメにするのだ。相撲部屋での団体生活の中では、女性に恋してしまった力士は、すぐにわかる。厳しい稽古中でも、どこか力が抜けている。これまで汚いタオルで汗を拭っていたのに、ふと見ると、彼女にもらったとおぼしき、きれいなハンカチを使っていたりする。稽古後も、ひとりで出かけていったり、夜遅く帰ってきたり。みんなでちゃんこを食べているときも、どこか上の空だ。孤立していたり、浮いていたりするのだ。

 女性に恋をして、こんな行動を取っているような力士で出世した力士はいないんじゃないか。恋に限らず、相撲以外の雑念が入り込み、修業に集中できなくなったら、力士はそれ以上は上にいけない。

 強くなる力士、強くなってやろうと思っている力士は、女遊びはするが、女に本気で恋はしない。
女を好きになることがあっても、それが相撲より上に来ることがないようコントロールしているのだ。

 横綱や大関で結婚している力士も多いが、彼らは女性に恋して結婚したというよりは、相撲道を極めるために女の力を借りているんだという割り切りがある。だから、大成した力士の女房は、頼りがいのある年上が多いんだ。日本人のそれとは事情が異なる、外国人力士の場合は例外もあるようだが、いずれにせよ、わがままでやんちゃな力士を掌の上で遊ばせておけるような女性がふさわしいのだ。

 ではなぜ、年上が多いのか? 理由はいくつかある。

 強い力士は、出世も早い。十代で関取になる者も少なくない。そうなると、土俵外では、すぐに大人の世界に放り込まれるのだ。タニマチとの付き合いもあれば、入ってくる給料も同年代とはケタ違い。遊び場所も、ディズニーランドなどには行かずに、クラブやら料亭やらになるもんだ。

 そこで出会うホステスや芸者の女性というのは、ほとんどが年上。 言葉は悪いが、こういう水商売の女性というのは、力士にとってはなんとも都合がいいのだ。

 遊び相手に選んだとしても、向こうはプロだから、さばさばしている。遊ぶだけ遊んだら、お互い「はい、終わり」。後腐れがないし、楽なのだ。

 一方で、いわゆる「素人」の女性と深い関係になってしまった力士は、さっきも書いた通り、ダメになる奴が多い。お互い、特に女性側が別れるに別れられなくなってしまうのだ。その想いにほだされ、力士側も情が入ってしまう。

 中でも、関取になる前に力士がこうした女性とお互い本気の仲になると、あとは廃業するしかない。一緒になって所帯を持とうといったって、関取以下は給料がもらえないのだから、現実的には生活できない。そこで、力士をやめて、別の道で職に就こうと考える者が多く出てくるのだ。

 まあ、そういう者たちは、そもそも「やめ時」を探していたともいえる。厳しい言い方をすれば、番付の上まで行く実力や気力がなかった力士なのだ。もちろん、こうした選択の先に、新しい人生と幸せが待っているのなら、結構なことじゃないか。誰も文句を言う筋合いのものではない。

 片や、水商売の女性とは、遊びだけではなく、結婚する力士も多い。水商売の女性と遊べるくらいの力士は、それなりに出世していて、経済力もある。現役を続けたまま、所帯を持つことが可能だ。

 女性も商売柄、さまざまな人と出会い、さまざまな見聞を積んでいるので、中学校や高校を出てすぐに相撲界に入ったような男にとっては、実に頼りがいがあり、懐が深く、甘えられる存在なのだ。

 なにより、相撲だって、いってみれば水商売。人前で取っ組み合いを見せてお金をもらうなんていう、堅気じゃない仕事なのだ。つまり、ホステスや芸者なんかは同業者。世間一般では非常識といわれることも、同業者同士では理解し合えるってもんさ。

 たとえば、番付上位になる力士になると、愛する女といる時間よりも、タニマチや後輩力士たちと飲み食いしている時間のほうが圧倒的に多い。金だって、湯水のように使う。そこで「これも力士に必要なことなのだから、しょうがない」なんて言うと、「何を都合のいいことを!」と怒りだすのが一般的な女性だろう。そんな女性は、力士の女房には不向きだ。

 ところが、水商売を長くやった女性は、相撲界に限らず、そういう世界があることを重々承知しているので、話が早いのだ。

 有力力士が、「家事手伝い」やら「接客業」なんて肩書の女性を嫁にもらうことが以前はよくあったが、あれはほとんど水商売の女性だ。さすがに、表立ってホステスや芸者と結婚するとは言えないから、そんな肩書にしたがるのだろうが、俺からみれば、おかしなことだ。仮に横綱が水商売の女をもらったって、堂々と「俺の嫁は、銀座でいちばん器量のいいホステスだ」と宣言してしまえばいいのに。銀座のナンバー1ホステスを手に入れた男といえば、さらに株は上がるんじゃないか?

 かくいう俺も、30年以上も前になるが、3歳年上のホステスの女と結婚したし、この選択に間違いなかった。力士をやめた後も定職に就くことなく、ときには侠客の大親分のお付きみたいなことをしながら、ふらふらしていた俺に、病気で他界する2年前まで、ずっとついてきてくれたんだからな。本当に奇特で、最高の女だった。

博多まで追ってきた関西の女性

 そんな女房と結婚する前、俺は、いわゆる一般の女性と付き合った経験がある。その女性は、大阪在住の、いいとこのお嬢さんだった。

 当時、俺は十両に上がったばかりの21~22歳だったろうか。彼女は同年代の女子大生。本場所や巡業で関西方面に行くとき会ったり、時には新幹線でお互い行き来しながら会っていた。

 だが、俺は彼女に恋するつもりなどなかった。女性と付き合うのも粋な遊び。お互い、会っている時間を存分に楽しめればいいじゃないか、というくらいのつもりだった。もちろん、遊びといっても、素人には手は出さないぜ。手を出すのは、プロを相手にするときだけ。そもそも、素人の女性と「遊び」で付き合うことなど、すこぶる難しいのだ。

 この大阪の女性とも、こんなことがあった。

 ある日、彼女と喫茶店でお茶をしているときに、彼女にオメガの高級時計をプレゼントしたことがあった。

「ほれっ、コレ取っておきなよ」

 すると彼女は、「こんな高価なものはもらえません」と、受け取りを拒否したのだ。

「なんで?」

 俺からしたら、じれったくて仕方がない。水商売の女だったら、「ありがとう! うれしー」と言って、すぐに受け取り、はい終わり。だが、彼女はなんだかんだと言って、受け取ろうとしない。だが、そういう反応に出られたら、俺はあっさりしているぜ。その時計を、喫茶店の窓からポイと捨てるだけだ。

「なんで、そういうことをするんですか?」

 彼女は驚きつつも怒っていたが、俺はこう言うしかない。

「なんでって、あんたにはめてもらおうと思って買ってきたんだぜ。いらないと言われても、ほかの人にあげるわけにはいかない。ならば、捨てるしかないだろう」

 彼女と会っているときは、しょっちゅうこんなやりとりがあったが、年に何回かしか会っていなかったから、3~4年も付き合えたんだろうな。毎日のように会っては、こんなことを続けていたら、1カ月ももたなかっただろう。

 そのうち彼女は俺と一緒になりたいと考えだしたんだろうが、俺にはまだまだ相撲で上にいきたいという強い思いがあった。しかも、相撲道に精進することを決意するということは、明日大けがして、引退せざるを得なくなり、職を失う可能性もある、綱渡りの人生を歩むことを意味するのだ。そんな道に、いいところのお嬢さんを連れ込むわけにはいかないだろう。

 俺は彼女の思いを頑なに拒んだ。堅気の男と結婚すべきだと諭してやった。だから、俺は大阪から博多に移動する前に、彼女を呼び出し別れを告げた。

「そろそろ、やめようぜ」

 そう言い残して、俺は新幹線で博多に向かったのだ。だが、彼女は数日後、博多にまでやってきたのだ。

「なにしに来たんだ?」と聞くと、案の定「考え直してほしい」と言う。これまで何度も繰り返し言ってきたことを伝えても、まったく引き下がろうとしない。

 そこで俺は、ある嘘をついた。

「実を言うと、もう次(の女)ができたから」

 そう言っても、彼女はなかなか信じてくれなかった。

「そんなすぐにできるわけない。嘘でしょ」

 そこで俺は、博多での行きつけのクラブのホステスに協力してもらい、新しい彼女になりすましてもらったのだ。

「これが、今の女だ」

 そう紹介すると、彼女はやっとあきらめて、俺の元から去っていった。

 このとき、何も深い事情は聞かず、彼女の前で口を開くことなく、黙って俺の言う通りに恋人のフリをしてくれたのが、のちに俺の女房になる女だったのだ。このときはまだ顔見知り程度。だが、こんなことまでしてくれる。水商売の女は度量が違うと思ったね。やっぱり力士の女は、こっちに限る。

 色恋沙汰の話は、最近のことも含めて、まだまだあるが、それは別の機会に。まぁ、いずれにせよ、大阪の女性も、いい思い出だぜ。

 今はどこかで立派なばあさんになってしまっているんだろうなぁ。

高橋光弥(たかはし・みつや)
元関取・栃桜。現役時代は、行司の軍配に抗議したり、弓取り式で弓を折ったり、キャバレーの社長を務めるなどの破天荒な言動により角界で名を馳せる。漫画「のたり松太郎」のモデルとの説もある。


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