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第1特集
嫌いだからこそわかる「村上春樹」の正しい読み方【2】

有名編集者への憎悪、怒り、怨念......原稿流出騒動から垣間見える「春樹の暗部」

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 06年3月、村上春樹は『文藝春秋』4月号に「ある編集者の生と死〜安原顯氏のこと」という文章を突如寄稿した。複数の直筆原稿を、中央公論社の担当編集者だった安原顯に流出させられ、古書店やインターネットオークションで高額取引されていることを告発するというものだ。

 デビュー以前から友好的な関係にあった安原が、ある日を境に、自身がかかわる雑誌などで大々的な村上バッシングを展開。以来、絶縁状態になったことに触れる部分では、関係が良好だった時でさえ、売却目的で原稿を持ち帰っていたのなら「何かしら歪んだものがある」と断じ、小説家になりたかった安原から見せられた作品を「面白い小説ではなかった」と評価するなど、エッセイなどに見られる柔和でジェントルな村上像からは想像もつかない怒りが見え隠れしていた。テレビや新聞はこの一件を村上に同情的な論調で取り上げていた一方、村上のやり口を批判する論者も少なからずいた。

 歌人・枡野浩一は、当時、自身のブログで、安原、古書店主ともにすでに亡くなっており、真相は不明としながら、生原稿を売ってはいけないという常識を盾に安原の仕事や人格まで貶めるのは卑怯だと語っている。また、後出・小谷野敦氏も「原稿を売ったことへの怒りが、安原の人間性の批判にまで及ぶのは問題」と口を揃える。

 ことの善悪は別として原稿流出はそう珍しくはない。そんな"当たり前"のできごとですらNHKが報じる事件と化してしまうあたりは、さすが村上春樹。しかし、枡野・小谷野両氏の指摘にも当然一理ある。「未来の文豪」だけに、もう少しマシなケンカのしかたもあったはずなのだが......。
(成松 哲)


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