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第1特集
東証一部上場のラーメン屋、「安さ」と「味」の両立はできるのか!?

幸楽苑vs日高屋の勝敗は!? 激安ラーメン大戦争の内幕

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 ──幸楽苑と日高屋。それぞれ低価格を売りにしたラーメンチェーン店として名を馳せ、ラーメン好きでなくとも、多くの人がその店名を目にしたことがあるだろう。一見、活況を呈している激安ラーメンビジネスの舞台裏は、果たしてどうなっているのだろうか?

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上/幸楽苑の中華そば(290円)。下/日高屋の中華そば(390円)。

 現在、ラーメン業界の市場規模は、年間約7000億円と算定され、人気店となれば年商1億円は軽く超えるという。現在、首都圏だけでも1日1店舗ペースで新店がオープンしており、その勢いは衰えていない。

 そうした動きを踏まえ、「00年以降ぐらいから、業界が二極化してきた」とラーメン専門ライターの福岡岳洋氏は分析する。

「大別すると、味で勝負する個人経営店と価格で勝負するチェーン店という、2つの方向性があります。簡単に言えば、個人店は、味や個性、こだわりで勝負して客層を絞っているのに対し、チェーン店はターゲットを広げると同時に、徹底したコストパフォーマンスを行い、最大公約数的な客層を狙っているということですね」(福岡氏)

 また、食品業界紙記者は「ラーメン市場は、外食産業界の"最後の楽園"」と解説する。

 というのも、「外食産業マーケティング便覧2006」によれば、ほかの外食業界は、上位数社の大手企業により市場が寡占化されているのに対して、ラーメン業界は、市場の約80%が個人経営店に占められてる。つまり、チェーン経営店の比率は20%前後にとどまっているのだ。それゆえに、今後、市場を開拓できる可能性も十分残されており、チェーンを運営している企業各社が現在しのぎを削っているというわけだ。

 そういった背景の中、チェーン店の二大巨頭と目されているのが、ともに"激安"を売りにしている「幸楽苑」(運営・幸楽苑/425店)と「日高屋」(運営・ハイデイ日高/197店)である。700〜800円が平均相場という中で、思い切った価格破壊を行い、日高屋では390円、幸楽苑ではさらに安い290円でラーメンを提供している。07年度には日高屋が約177億円、幸楽苑は約320億円の売上高に達し、7000億円ラーメン市場において、この2社で全体の7%以上を占めているのだ。

 また、両社ともに東証一部上場を果たしており(ラーメンチェーン企業としては幸楽苑が初の03年に上場、日高屋は06年に上場)、業界内のみならず、優良企業として経済界から注目を浴びる存在となっている。

都市型vs郊外型 好対照な経営戦略

 しかし、両社には、一方ではこのような声もある。ラーメンのプロデュースや『最新 ラーメンの本2008〜2009』(交通タイムス社)の監修として活躍している、気鋭のラーメン評論家・石山勇人氏は「業界内の見方としては、『ラーメンとしての味が云々』と評価されるような対象ではない」と語る。当然といえば当然の話かもしれないが、安いだけあって、味に関しては、両店ともに及第点以下という意見が大勢のようだ。ダシの味がしないスープに、ゴムっぽい食感のする麺。メンマやナルト、チャーシューといった具も特徴のない味。同様に、福岡氏も「わざわざ両店で食べることはない」と言う。まぁ、そもそも500円でお釣りがくるラーメンであり、グルメ志向のラーメン店と比べるのはフェアではないかもしれないが......。

「結局、両店ともに、いわゆるラーメン屋ではなく、ラーメンチェーン企業。味だけで勝負するのではなく、価格設定や店舗展開などを考慮しながら、いかに総合的なビジネスとして成功するかを狙うのは当然です。いってみれば、牛丼やハンバーガーのようなファーストフードのビジネスモデルを追求した業態というわけです」(石山氏)

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 つまり、味よりも巧みな経営戦略によって、ここまで上り詰めてきたというわけだ。その戦略の違いを簡単にまとめると、以下のように色分けできる。

 日高屋は、繁華街や都心部の駅前を中心に展開。仕事帰りのサラリーマンが、ふらりと寄れるような店舗運営を目指しているのだ。残業で疲れた体を癒やすビールを飲みながら、つまみに箸を伸ばし、締めにラーメンをすするという具合に、居酒屋感覚のラーメン屋ともいえるだろう。


「幸楽苑は生ビール中ジョッキ1杯が450円ですが、日高屋は390円と安めの設定。それに合わせて、定食やポテトフライなんかも揃えていたりする。ラーメン以外にもサイドメニューを注文してもらおうという狙いが見える」と石山氏は日高屋のねらいを解説する。また、季節限定メニューを取り入れるなど、マクドナルドや吉野家といったラーメン店以外のライバルが乱立する駅前という戦場で勝ち抜くため、消費者を飽きさせない工夫を凝らしていることが日高屋の強みである。

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 一方、幸楽苑は郊外の国道などのロードサイドを中心に店舗数を増やしている。大駐車場を完備し、車での移動が主な地方で絶大な人気を誇っているようだ。店舗あたり100席以上ある大型店舗が多く、ファミレスをイメージさせる内装を施している。お客さんの中心は、ファミリー層だ。現在、店舗数を一気に1000店舗に拡大する計画を掲げており、毎月3〜5店舗ほどが各地でオープンしている。

「個人的な味の好みだけで言えば、クオリティは幸楽苑のほうが上回っていると思います。多加水の熟成ちぢれ麺を使ってますし、スープも魚介系のダシを使っている。今のラーメンの潮流に乗ってますよね」と石山氏はその味を分析している。

低価格の裏に潜む劣悪な労働環境

 激安の理由は、もちろん自社工場にある。日高屋、幸楽苑ともに、麺やスープ、餃子などを工場で生産し、全国に配送するシステムを構築している。また、幸楽苑では1日3万食以上の麺と、1時間9000個の餃子を作り出す高速ラインを自社開発し、290円ラーメンを実現させているのだ。すなわち、多くの外食チェーン同様、大規模な工場を持つことで、コストを最小限に抑えているというわけだ。

「各店でスープを作っていたら、コストがバカにならない。自社工場というセントラルキッチンを持つことこそ、外食チェーン店の最大の強み。スケールメリットを生かすことで、コストを抑えられるんです」(石山氏)

 ただ、「飲食店の価格設定に影響する要因は、当然、食材ではありません。流通や生産のコストだけでなく、人件費も大きな要素のひとつなんです」(福岡氏)という指摘もあるように、激安のしわ寄せは従業員に襲ってくることになる。

「1日15時間労働は当たり前。いくら時間外労働手当がつくといってもねぇ......。休日でも他店のヘルプに行かされたりしていますし。今、独身寮に入っているのですが、3人が同じ部屋で暮らすタコ部屋状態です(笑)。我ながら、本当にひどい環境で働いているなぁ、と。また、景気低迷で失業者が増える状況を、人材採用の好機ととらえて、一気に150人を社員として中途採用するという話も社内で出ている。応募を考えている人には、『激務を覚悟してください』とアドバイスしますよ(笑)」と、幸楽苑に勤務している20代の男性は嘆く。

 また、このような労働環境以外にも、低価格によって自らの首を絞めている側面もある。幸楽苑でラーメンを頼む際、店員から「一緒に餃子はいかがですか?」と聞かれることが多い。というのも、290円ラーメン、実は食材費の変動によっては、それ単体だけでは赤字が出てしまうこともあるという。餃子やドリンクなどを一緒に注文してもらわない限り、どんなにラーメンが売れても儲けが出ない、という負の循環を繰り返すリスクもあるのだ。そのマイナス効果が如実に表れたのが、07年に起こった幸楽苑の社長交代劇。幸楽苑では、06年度の連結決算で4億6000万円の黒字が予想されていたものの、蓋を開けてみたら、物価の上昇などによって、1億6000万円の赤字見込みに転落することになってしまったのだ。

「この責任を取る形で、当時の長谷川(利弘)社長が、取締役に降格させられ、一度は会長に退いた新井田傳氏が、会長兼社長として返り咲いたという一幕もあった。現在、売り上げを伸ばし、業績を拡大してはいるが、純利益そのものは3年前と比べて落ち込んでおり、厳しい経営状態が続いているというのが実情かもしれません。一方、日高屋は、都心への出店戦略が奏功し、着実に売り上げ・利益ともに伸ばしている。経営の健全性では、日高屋が幸楽苑を一歩リードしているといえますね」(前出・業界紙記者)

 はたして激安ラーメン戦争は今後どうなっていくのか。一杯280円という、幸楽苑よりもさらに安いラーメンを仕掛けた「一番館」や、全国で20 0店舗以上展開する「花月」などの追撃も予想されるが、「今後も日高屋と幸楽苑の存在は、揺るぎないでしょうね」と石山氏は予測する。

「すでに日高屋と幸楽苑がシェアを寡占化しつつありますし、何よりも『激安ラーメンといえばこの2店』というブランドイメージを定着させることに成功した。両者が激安ラーメン戦争をリードし続けることは、間違いないでしょう」

 これまで、大きな勢力が存在しなかったラーメン業界の地図を塗り替えた、幸楽苑VS日高屋の激安ラーメン戦争。この争いが、まだまだ終わることはなさそうである。さて、原稿も書き終え小腹が減ったので、筆者は「麺屋武蔵」にでも行って、腹を満たしてきます!

(文/佐竹仁義)

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ということで、ラーメン最前線をチェック!

「『ブームは終息した』なんてよくいわれますけど、とんでもない。ラーメン本はまだまだ根強く売れているし、今も盛り上がっていますよ」とラーメン評論家・石山勇人氏は語り、その理由として「とにかく有名店が増えた」ことを挙げる。最近は、テレビや雑誌だけでなく、HPやブログ、mixiといったインターネット上で、さまざまな情報が飛び交い、ラーメンバブルが膨らんでいるという。

「よく"おいしいラーメン"の定義を聞かれるんですが、おいしいラーメンというのは、"売れるラーメン"のことなんですよ」と石山氏は言い切る。つまり、味はもちろんのこと、そのおいしさを、いかに情報として伝播させるかが、非常に重要というわけだ。

 では、現在のラーメンのトレンドはどんなものなのだろうか? 昔ながらのあっさりもおいしいと思うんですけど......。

「ボリューム、塩分、油、そして極太麺が最近のキーワード。わかりやすいインパクトがあるラーメンが人気だし、そういうお店は行列ができてますよね」と石山氏。あくまでも味は濃厚、というのがキーらしい。現在のラーメン通はあっさり味を好まないんでしょうか? 「いや、あっさり味のラーメンを食べるくらいなら、そばを食べたほうがいいでしょう」と石山氏は笑う。さすが"ラーメンマン"と呼ばれるだけのことはあります。

 そして、現在最も熱いエリアについては「やっぱり高田馬場は間違いないっすね。あとは新宿、池袋。意外なところでは亀有、松戸、大宮、平塚あたりが盛り上がってますよ」とのこと。

 現在、一番の注目店は、ラーメンライターの福岡氏によれば、西武鉄道新宿線・都立家政駅(東京都・中野区)にある「麺や 七彩」らしい。

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ラーメン評論家の石山さん。取材が立て込むときは、月に100軒以上のラーメンを食べるという。ゲップ......。

「都立家政なんて地元の人でもない限り、なかなか訪れない場所じゃないですか。にもかかわらず、毎日遠方から足を運んできた人たちで行列ができている。もともと、ラーメン通の間では知られた名店だったんですが、テレビで取り上げられた影響で一気に火がつきましたね」と福岡氏は言う。

 一時は陰りを見せたかと思ったラーメン人気だが、まだまだ盛り上がっていくことは間違いなさそうだ。


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