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第2特集
知的障害者、そして精神障害者の犯罪【1】

障害者が犯した事件報道は、いかにあるべきか?

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――千葉県東金市の女児殺害事件、東京都国立市・世田谷区でのホームレス襲撃・殺害事件等々、昨今、知的障害者によって起こされた重大事件が連続しているように見える。しかしそもそも我々は、「知的障害者」「精神障害者」が何を意味するのかを理解しているのか? 一部メディアが報じるように、彼らは本当に"凶暴"なのか? そして、それらの事件はどのように報道されるべきなのか?

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養護学校を卒業し、軽度の知的障害があった容疑者を、各メディアは顔写真付き、実名で報じた。(新聞は朝日新聞)

2008年9月に千葉県東金市で女児が遺体で見つかった事件の容疑者として、同年12月6日、軽度の知的障害のある男が死体遺棄容疑で逮捕され、同26日に殺人容疑で再逮捕された。その一部始終は、各メディアによって逐一報じられたが、その報道姿勢と内容をめぐり、さまざまな問題点を指摘する声が上がっている。

 まず、批判が集中したのが、TBS女性記者が、逮捕前の容疑者をカラオケに連れ出し、逮捕2日後にその際の映像を放送した件だ。容疑者の弁護人である副島洋明弁護士は、「創 09年2月号」(創出版)において、「知的障害者と知りながら、その"弱みにつけ込む"かのような取材をしている」と強く批判しており、インターネット上などでも同様の意見が多数を占める。

 さらに、容疑者の実名および顔写真を大半のメディアが公表したが、そのことを問題視する意見も続出している。これは、同じく知的障害のある容疑者が逮捕された一連の東京ホームレス襲撃・殺害事件(08年6月、09年1月)の報道においても同様だ。【各社横並びの実名報道が行われた原因と弊害については、ジャーナリスト・上杉隆氏インタビュー記事参照】

 原則として、実名・匿名の判断は、各メディアに委ねられている。そして、その判断は、刑法39条(「心神喪失者の行為は、罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と規定)と、精神保健福祉法(精神障害者に対する理解を深め、障害の克服と社会復帰に協力する国民の義務を規定)とに照らして行われる。指針を明文化しているメディアもあり、例えば、朝日新聞の場合、「刑事責任が問えない可能性が高い場合は匿名とする。ただし、可能性がわからない場合は、事件の重大性が高いときは実名、低いときは匿名とする。『歴史的重大事件』の場合は、刑事責任が問えないとしても実名を記し、顔写真を掲載することがある」などと規定している(『事件の取材と報道』朝日新聞社、05年)。

 つまり、刑事責任能力の有無が最大の判断基準となるわけだが、それが明らかになるのは、精神鑑定が実施された後のこと。警察発表と外形的な事実しか得られていない初期報道の段階で、常に正しい判断を下すというのは、実質的に不可能なのだ。よって、実名・匿名の判断は、多分に恣意的なものとならざるを得ず、メディアによってバラツキが出ることにもなるのである。

 そのため、事件の進展状況によって、実名が匿名(あるいはその逆)に変更されることもよくある。さらにいえば、事件発生から容疑者逮捕までは大々的に報じられていたにもかかわらず、容疑者の責任能力に疑問が生じたとたん、報道がフェードアウトするケースもある。その典型的な例が、01年に発生した浅草女子短大生刺殺事件だ。発生当初、レッサーパンダ帽をかぶった男による犯行の概要が、メディアで盛んに報じられたが、加害者に軽度の知的障害と自閉傾向があると判明して以降、取り上げられる回数は激減、ついにはまったく報道されなくなった。しかも、自粛に至った経緯や理由については、ほとんど説明されなかったのである。【人権配慮と、報道の公益性の問題については、報道カメラマン・宮嶋茂樹氏インタビュー記事参照】

 その一方で、読者・視聴者の興味を惹きそうな重大事件ばかりを皮相的に取り上げ、動機の不可解さや犯行の残虐性をいたずらに強調する報道も目につく。附属池田小児童殺傷事件(01年)や秋葉原連続殺傷事件(08年)などの重大事件がセンセーショナルに報じられる過程で、「精神障害」や「精神鑑定」といった言葉が、負の要素として注目を集めた。それが結果的に、読者や視聴者に、「精神障害者や知的障害者は、一般の理解を超えた危険な存在なのだ」といった誤ったイメージを抱かせることにつながっているのである。

 ただ、こうした現状を生み出した責任の一端は、重大事件の報道には飛びつきやすい半面、ごく基本的な知的障害者・精神障害者に関する情報などには目もくれない、読者・視聴者の側にもあるだろう。例えば、刑法上は「知的障害」と「精神障害」の定義に差異はないことや、日本の犯罪は増加も凶悪化もしていないという見解が専門家の間で定説となっていること、あるいは、精神鑑定を受けることすらなく、知的障害や精神障害のある多数の刑法犯が一般刑務所に収監されていることを知っている人が、一体どれだけいるだろう。そうした関心の偏りや知識の欠如が、メディアの行き過ぎや萎縮に拍車をかけているのではないか。【知的障害と精神障害の定義や精神鑑定の実施状況については、精神科医・岩波明氏インタビュー記事、犯罪率や犯罪傾向については、法社会学者・河合幹雄氏インタビュー記事、刑務所内の実態については、元衆議院議員・山本譲司氏インタビュー記事参照】

 ここまで、現状と問題点について簡単に見てきた。知的障害者・精神障害者の事件報道が、いかに多くの問題をはらんでいるか、ある程度おわかりいただけたと思う。関連の記事では、前出の各テーマに関連した5名の専門家に、それぞれの立場から、知的障害者・精神障害者の事件報道の現状と、メディアおよび読者・視聴者の今後のあり方などについて、さらに踏み込んで論じてもらった。タブー視されがちなこの問題についての考えを深めるための一助としていただきたい。

(文・構成/松島拡、西川萌子)

【註】この特集は、知的障害者・精神障害者の事件報道の現状を踏まえた上で、そこに潜む問題点を取り上げ、考察を加えることを意図したものです。そうした企画の性質上、また、これまでに公表された事実や独自の取材から判断した結果、本特集で使用した新聞記事やテレビ映像については、すべて報道当時のままの状態で掲載しました。


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